2020.11.08 [インタビュー]
真実は決してひとつではない――。仏教的な世界観の中で人間を描く。『アラヤ』公式インタビュー:シー・モン(監督/脚本/プロデューサー/編集)

東京国際映画祭公式インタビュー 2020年11月7日
アラヤ
シー・モン(監督/脚本/プロデューサー/編集)
アラヤ

©2020 TIFF

 
中国の奥地の架空の村アラヤで展開する寓意に満ちた物語。息子が山奥で行方不明になって以来、17年間も探し続ける猟師。暴行されて身籠ったシングルマザー、そしてその子も若くして身籠るが相手の男から疎んじられる。それぞれのエピソードが絡まりあい、やがて全体像が明らかになる――。コマーシャルなどを手がけて演出と映像感性を育んだシー・モンの映画デビュー作は仏教的な死生観に彩られた、ミステリアスな人間ドラマだ。
 
――作品のアイデアはどのように生まれたのですか。
シー・モン監督(以下、シー監督):2017年の中国映画『你好,疯子!』(英題:“The Insanity”)からインスパイアされました。ラオ・シャオジー(饒暁志)監督が撮った多重人格の女性の話です。それから1年かけてこの脚本を練りました。私は常々、自分はどんな人間なのかという問いに興味を持っていました。人類は歴史が始まって以来、「私は一体誰なのか」という疑問を持ち続けてきましたが、その疑問は『你好,疯子!』の多重人格の女性も持っていましたし、私もそこを模索するこの物語を描いたわけです。私自身にとってこの題材はとても重要なものなのです。
 
――暴行シーンや出産シーンなどハードなエピソードを入れながら、タイムラインが飛ぶ語り口で、最後に全体像が明らかになる構成です。この手法はどのように決めましたか。
シー監督:私は女性監督として女性の強さというものを描きたいと思っています。女性は犠牲者に見られがちだけど、決してそれだけではないということを描きたかったのです。さらに物事には100パーセントの犠牲者とか100パーセントの加害者というものは存在しないと考えています。物事には白黒はっきりできるものはないと思います。
 
――タイムラインが飛ぶことに関してはいかがですか。
シー監督:映画の大切なテーマは真実の追求だと思っています。真実を追求していくうちに、過去と現在を行き来する。ブレインストーミングのように、ひとつの事実が現れ、また次の事実が現れ、というような形でさまざまな事実が出てきます。さらに映画の中には多くのキャラクターが登場して、異なった視点や考え方が出現するようにしました。真実は決してひとつではないということを意図して描きました。
 
――アラヤという場所は架空の場所だということですが理由は何かあるのですか?
シー監督:この作品に関して私はスーパー・リアリスティックな映画だと考えています。「アラヤ」と同じように多くの言葉が仏教から来ていて、山や村の名前も仏教の言葉、宗教的な言葉を使っています。
“アラヤ”とは、人間には8つの意識があり、8番目がアラヤ(阿頼耶識。8つの識の最深層に位置する)でこれはマジックボックスのようなものです。アラヤの村の人々はそのマジックボックスに入っていてそこから逃れられない。そんなイメージでアラヤという名前を付けました。
 
――中国語の題名『無生』も仏教用語ですし仏教的な死生観が貫かれていると思いますが、なぜそういう設定にしたのですか。
シー監督:作品のタイトルは「金剛般若経」と「円覚経」のふたつの経本にヒントを得ています。『無生』とは“生まれない”ということです。「真実を求めるとそこには生も死もない」という言葉があります。人間というのは生きるか死ぬかそればかりを考えて生きている気がします。
人生をひとつの夢とすると夢から覚めたらそれは無になっているわけです。生きているうちは、生と死、そればかりを考えてがんじがらめになっているけれど、結局、全てのことは無になるという、あたかも夢から覚めたように、という考え方です。映画のキャラクターも愛し合ったり、憎み合ったり、傷つけ合ったりしますが、真実は夢から覚めたかのごとく、全て無になるという意味合いを込めています。
 
――架空の場所ということですが風景の映像が圧倒的でした。
シー監督:ロケーションを行なったのは中国の北東部にある山岳地帯です。辺鄙なところですが、私たちが住んでいる北京から一番近い山岳地帯なのです。
 
――これが初めての監督作品で苦労した点も多かったでしょう。
シー監督:確かに初監督作でそれだけでも大変だったのですが、プロデューサーも務めているので、ストレスが倍増しました。ベテランの俳優たちとうまくコミュニケートすることも苦労しました。私自身も監督としてまだまだ修行が足りないと痛感しました。
 
――映画という表現にいつごろから惹かれたのですか。
シー監督:私は広告とソーシャルメディアを専攻してオーストラリアとデンマークに留学しました。以前からドキュメンタリー映画に興味を持っていたので、中国に戻ってからはドキュメンタリー専門のテレビ局に入りました。そこで映像の仕事の魅力に気づいたのです。
それから自分で映像の制作会社を設立しました。2014年の設立当初はテレビコマーシャルなどをメインに製作。脚本を書く練習、そしてプロデュース、編集などの経験を積んで、2017年に映画を撮り始めました。
 
――影響を受けた映画人はいますか。
シー監督:アッバス・キアロスタミ監督や小津安二郎監督、アニエス・ヴァルダ監督です。
 
――すでに2本目の脚本が完成したと伺いました。今回と同じような題材の企画なのですか。
シー監督:『アラヤ』のプレリュードのような作品です。姉妹作品と思ってください。母親と娘の物語をメインに2作目は考えています。『アラヤ』ではふたりの関係性を深く描けなかったのですが、彼女たちは運命の糸に操られて似たような人生をおくります。
ふたつの世代、フォンテーヌとその娘コゼットが運命に操られる、『レ・ミゼラブル』のような作品です。キャラクターの名前は同じものを使いますが、俳優は未定です。アラヤという村の名前はそのままにしたいと思います。ただこの作品とは違う場所で撮影しようかと思っています。
 
――映画製作と並行して今もコマーシャルを製作しているのですか?
シー監督:できたら映画の作品だけにしたいと思うのですが、今でも広告の仕事が来たらお受けしています。やはりまだ映画だけでは食べていけないので。
 
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
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