2020.11.08 [インタビュー]
地方の工業都市を舞台に、実際に起きた母と娘の悲劇を描く『兎たちの暴走』公式インタビュー:シェン・ユー(監督/脚本)

東京国際映画祭公式インタビュー 2020年11月7日
兎たちの暴走
シェン・ユー(監督/脚本)
兎たちの暴走

©2020 TIFF

 
義理の母に嫌われている17歳の女子高生シュイ・チンは、幼い頃に別れた実母と再会し、その華やかさに魅了される。しかし親しくなるうちに実母が抱える過去のしがらみに巻き込まれ、一切を解き放つための誘拐事件を思いつく。2011年、中国で実際に起きた事件に着想を得た作品で、愛されたいがあまりに罪を犯す主人公の純心が衝撃的だ。母と娘の情愛をベースに、スリルに満ちたデビュー作を完成させたシェン・ユー監督に話を伺った。
 
――実際に起きた事件をもとにしたそうですが?
シェン・ユー監督(以下、シェン監督):脚本を書こうとする時期に事件の存在を知りインスパイアされましたが、ありのままを映画にしたわけではなく、人物やストーリーはすべて脚色してあります。当時、中国では弱者の立場にある人々が暴力を振るう事件が急増していて、このことが映画のモチーフになっています。
 
――四川省攀枝花市の高低差のある風土、重工業とマンゴーの街という土地柄が、独特の空気感をもたらしています。
シェン監督:大きな山と川に囲まれた丘陵にある工業都市という風土を求めて、攀枝花へロケハンに出かけましたが、あの市の空港は機体が下降しないで着陸するような断崖絶壁の上にあり、凄い土地だなと期待しました。
街へ行く道すがら煙突が沢山あり、住宅街にも地底のような場所が広がっている。食べ物も柔らかいものと硬いもの、甘いものと苦いものがあって、すべてにおいて落差が激しい。これは間違いなく映画の舞台になると確信しました。
 
――実際、階段や傾斜のある道が出てきて、主人公の母娘は上下降を繰り返します。
シェン監督:脚本を書くときに日本のある小説を読んでいて、高台に成金が住み、下町には貧乏人が住んでいるという設定があって、参考にしました。シュイ・チンの家は大きな橋の下の陽の当たらない場所にあり、女子高生モデルのマーの家は橋からさらに下の、もはや人の住む場所ではない環境に設定しました。
 
――『ブッダ・マウンテン〜希望と祈りの旅』(10/TIFF最優秀芸術貢献賞)のリー・ユー監督と、ロウ・イエ作品でも知られるファン・リーさんがプロデューサーを務めています。
シェン監督:リーさんは寛容な方で、「最初の発想を捨てるな、拘りを持て」とずっと私を励ましてくれました。ファンさんとは意見が衝突することもありましたが、何が作品にとって最善なのかを基準に解決しました。ファンさんはナイ・アンさん(取材者注 – 彼女もロウ・イエ作品のプロデューサー)と一緒に、マーを引き取ろうとする成金役の夫妻役で出演しています(笑)。
 
――メイ・フォンさん(TOKYOプレミア2020で『恋唄1980』が上映)と共に、『シャドウプレイ』(18)の脚本に名を連ねている、チウ・ユージエさんの協力は?
シェン監督:ユージエは私の友人で北京電影学院の同窓です。互いに少しずつ書いて、一緒に読み合わせをしながら、ストーリーを紡いでいきました。
 
――仲良しの女子高生3人の恋心や親に対する感情が繊細な彩りを添えています。
シェン監督:ロケハンに行った攀枝花市で現地の女子高生たちをリサーチしました。脚本はすでに完成していましたが、いろいろな話が聞けたおかげで豊かなディテールを加えることができました。
 
――トンネルが思春期のメタファーのように描かれていて印象的でした。学校の廊下が長いワンショットで捉えられているのもメタフォリカルで、お金持ちの娘ジン・シーは抜け出せたが、シュイ・チンは抜け出せない。戻って罪を犯すしかないという感情を観る者に掻き立てます。
シェン監督:おっしゃる通りでトンネルはとても重要な意味を持っています。人はトンネルを通るとき時間や空間を通過するような感覚に陥るもので、私はその感覚を呼び覚ましたくて、さまざまな形でトンネルを用いました。
最初に描いたのは母親とシュイ・チンがドライブに出るシーンですが、映画にトンネルを抜けたシーンはありません。「長い旅をしたいわね」というような会話をふたりはしますが、結局のところ実現しない。こんなふうに、様々なメタファーをトンネルに込めました。
 
――後半、いくつもの分岐点が描かれます。シュイ・チンは誘拐した女の子にうっかり睡眠薬の入っていない自分のジュースを与えようとし、母親は誘拐した子を家に帰そうとするが、シュイ・チンが真向かいにハンドルを切ってしまう。できれば罪を犯したくないという親子の心情が溢れ出て、涙を禁じ得ませんでした。
シェン監督:今回、弱者がなぜ暴力を振るうに至ったのか、脚本を書きながら理解したことは善と悪は紙一重だということです。犯罪者の心にも善は存在しています。
 
――母親役にワン・チエンさんをキャスティングした理由は?
シェン監督:ワンさんはプロ意識が高くて、女優としても魅力的なためオファーしました。脚本を読んで彼女も役を演じたいと言ってくれたので、互いの思惑が一致した形です。
 
――女子高生役の3人は?
シェン監督:シュイ・チン役のリー・ゲンシーは見た目がとても可愛いけど、どこか寂し気なところに惹かれました。金持ちの娘ジン・シー役の子は実際にも気が強いタイプで、素人ですが自信があって役にふさわしかった。モデルをしているマー役の子は撮影時はまだ高校生で、とても繊細で内気でしたが私に心を開いてくれました。
 
 

インタビュー/構成:赤塚成人(四月社/「CROSSCUT ASIA」編集)
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