2020.11.04 [イベントレポート]
「無実の人や子供たちが拷問を受けたり処刑されているということは絶対に間違っている」11/3(火・祝):Q&A ワールド・フォーカス『トゥルーノース』

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©2020 TIFF 10/31(土)のレッドカーペットアライバルに登壇した際の清水ハン栄治監督(左)、エリザベス・ミュラーさん(キャンペーン・プロデューサー)

 

11/3(火・祝)ワールド・フォーカス『トゥルーノース』上映後、Q&Aが行われ、清水ハン栄治監督が登壇しました。
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矢田部吉彦SP(以下、矢田部SP):皆様お待たせいたしました。大きな拍手でお迎えください。『トゥルーノース』監督、清水ハン栄治監督です。
 
清水ハン栄治監督(以下、監督):皆さん、今日は休日で色々予定もあったと思うのですが、この上映会に来ていただきまして、本当にありがとうございました。あと結構友達にも来ていただいたので、すごく応援されている感じがいたします。ありがとうございます。
 
矢田部SP:最初の質問は私からお伺いしたいと思いますが、やはりどうしてもこの質問から始めなければいけないかな、という風に思ってしまうのですが。この主題、この真実を伝える手段として、アニメーションで伝えようという風に思われた理由をお聞かせいただきたいな、と思います。
 
監督:世界中の人権問題もそうですし、特に北朝鮮はそうですが、我々は新聞のメディアとかニュースのメディアで人権侵害が起こっているということは分かっていると思うんです。頭の中では理解出来ていても心が付いていかない、というか、“悲劇的だな、はい、他に移りましょう”みたいな感じで。心に響かないと人間って行動しないと思ったんですね。僕らは日本で育って、アニメとか漫画とかっていう非常に親しみやすいメディアで育って来たので、アニメの力を借りれば、新聞の見出しの影に隠れている人たちにも人間の顔を付けたり、暖かさを付けることができると思ったんで、アニメに挑戦してみようと思いました。
 
矢田部SP:色々な方の証言を基に作られている真実の物語ということなんですけれども、ご自身も直接そういった方々に会われたことはあるのかどうかということと、もしあるのであれば、何かしら直接的な印象というようなものをお聞かせいただけますでしょうか。
 
監督:元はドキュメンタリー映画とかを作っていたので、色々な人にインタビューしていくというのは結構仕事でやってきていまして。『トゥルーノース』の場合もやっぱりそういった証言者、数は少ないんですけれども、北朝鮮の収容所にいて、脱出あるいは保釈されて、脱北して南にいる方がいるんですけれども、その人たちに実際にインタビューして。収容所には行かなかったけれども、日本出身のおばさま方達だったり、あとは収容所を体験してきた元看守の人であったりとか、囚人とかにインタビューをしたっていうのが一つと、あとそれ以外に日本には、僕もそうなんですけど、在日韓国人や在日朝鮮人がいて、1960・70年代にその人たちが約93,000人、北朝鮮のことを「地上の楽園」と言って結構行ったんですよね。その中には自分の母親とか親戚の友達とか近所の人たちがいて、そういった、今は日本で自由に生きてる人たちの昔話みたいなものも聞きました。
 
矢田部SP:そういった場合、皆さん口は重いのですか?それともやはり伝えなければいけないということで積極的にお話しなさる感じなんですか?
 
監督:北朝鮮が上手いと思うところがあって。連帯責任制というのがあるんですね。例えば、僕が悪いことをした、例えば、政権に対してちょっと愚痴をこぼしたりとかしただけで、僕も収容所に行きますし、それ以外に両親と子供達も行くんですね。三世代制なので、例えばインタビューした人たちに話を聞いても、やっぱり顔はモザイクかけてねとか、もう既にメディアに出ちゃっている人は、家族の犠牲を払ってでもこれを証言しなくちゃいけないという人もいましたし。何と言うか、家族を人質にとられたら、例えば何でしょう、日本だったら革命の志士で坂本龍馬とか、ヨーロッパではマリー・アントワネットとか、立ち上がった人がいるじゃないですか、革命を起こそうと思って。だけれども、例えば坂本龍馬だったら、そういう風に理想に燃えても、けれど「俺が捕まったら姉ちゃんも母ちゃんも」息子はいなかったかもしれないけど「子供達も収容所行きか、いや、やっぱりやめておくわ、土佐にいます」みたいな感じになっちゃうので、そこら辺のところの制度設計というのが上手いなぁと思いますね。
 
矢田部SP:ありがとうございます。
 
監督:(革命を起こしたのは)マリー・アントワネットではないですね(笑)。
 
矢田部SP:監督のお話を伺っていると、ユーモアも入ってくるところで、とても楽しく、真剣なテーマに向き合えるところがいいなと思うんですけれども。皆様、ご質問いかがでしょうか。
 
Q:構成について。
 
監督:僕、初めて脚本を書いた作品なんです。結構面白いことが起こって、登場人物に心を没頭していくと、書いているのは自分なんですけども、時々降りてくるんですよね、セリフとかが。「あれ?俺そんなセリフ、普通じゃ出ないのに」っていうのが…何かこう取り憑かれたように書くところがあって。あのカエルのシーンとかは、主人公は優しい少年なので何て言うかな?と思ったら、収容所でももちろん辛い思いを経験してきているからそういうことを言うんだよ、みたいな感じで、主人公のインス君が降りて来たりとか。
「政治の話はしません」というところなんですけれども、実はそれも僕が映画を作る上で、結果で人々が政治の話をすれば良いと思うんですが、作品ではあまり「これ政治です」っていう話をしたくなかったんですね。というのは例えば北朝鮮の問題も、何が正解か僕には分からないんですね。例えば北と南が統一されれば良いのか、国際社会に北がデビューすれば良いのか。ロシアが、中国が、アメリカが、どう絡めば良いのか、っていうのは僕には答えがないんですよ。だからそこについては言及するつもりもないし、主張するつもりもないんだけれど、無実の人や子供たちが拷問を受けたり処刑されているということは、専門家の話は置いておいても絶対に間違っている。これは誰に言われようが断言出来るんですね。だから政治の話はしないで、だけど人権の話は言わせてもらう、みたいな形で作品を作りました。
 
Q:極限状態の中でなぜ生きるのか、生きていることの意味は何なのだろうか、ということが問われているのではないかと思いました。
 
監督:ありがとうございます。ヴィクトール・フランクルさんの著書「夜と霧」を資料として使わせていただいて、実際に『MAN’S SEARCH FOR MEANING』というのが(『夜と霧』の)英語版のタイトルなのですが、この『トゥルーノース』のログライン、要はブランド名があって、マクドナルドの“I’m Lovin’ it”のような。それで初めに考えていたのが“boys search for meaning”というのにしたかったんですね。というのは、北朝鮮の収容所にいた人たちの手記とかレポートを読んでいたのですが、絶対数が少ないんですよ。生き延びられた人が少ないから。だから資料がなくて。じゃあ、世界中にそういった環境にあった人の手記を見るとホロコーストの生存者の話であるとか、そのなかにはヴィクトール・フランクルさんの話もあるし、あとロシアのグラグにいた人たち、そういった人たちの話を集めていって、やはりその中で強くインスパイアされたのが「夜と霧」で。というのは、極限の状態、生きるか死ぬかの時に、ヴィクトール・フランクルさんが見たのは、2つのタイプの人を見たというのですね。短めバージョンで言うと、要は収容所の中で心理学者および囚人として色々と苦しんでいる人を見ると、誰が生き延びるタイプか、誰がすぐ死んじゃうタイプかというのがわかっていったんですね。その中でちゃんと自分の目的意識とか意味を見出している人は、とかく生き延びやすかったんで、そこで1つのインスピレーションが湧きました。
 
Q:CGのキャラクターデザインについて。
 
監督:結構カクカクのルックなのですが、ポリゴンを少なくして、折り紙みたいな感じなのですが、色々試したんですよね。もちろんディズニーやピクサーでやっている綺麗な表面とかでもやったのですが、それをやるとどぎつ過ぎちゃうというか、お姫様とかの話だったらツルツルでいいと思うのですが、拷問のシーンや強制労働のシーンをツルツルでやると観客がついていけなくなっちゃうんですよ。だからある程度リアリティは見せながらも、あまりそこの部分では没頭させないみたいな、バリアを張るという意味とやはり見た目でも特徴のあるものを作りたかったので、そこの部分であの形に収まりました。
壁にアート、押し花をやるというのは、実際にそれはヒアリングしたストーリーではないのですが、収容所の中でそういったアート的なことをやるって人の話は聞いたことがあります。妹のキャラクターは、どんな悲劇の中でも美しいものを見つけるとか、尊いもの優しいものを見つけるというキャラクターに設定にしたかったので、小汚いあの部屋の中でもきれいな花で装飾しちゃう、みたいな人間性を入れたかったです。
 
矢田部SP:この作品はインドネシアのクリエイティブチームとコラボレーションされたということですが、今日の夕方に、清水監督にはこの作品のアニメーションの話題に特化したオンライントークイベントをお願いしています。モデレーターをアニメ評論家の藤津亮太さんに務めていただき、インドネシアのアニメーターの方ともオンラインで繋いだトークイベントとなります。そちらも興味深いものになるはずですので、ぜひご覧ください。YouTubeでもご覧になれます。
それでは最後のひとことをお願いします。

 
監督:この映画を通じて、作品を公開出来たからおしまい、じゃなくてやっぱり世界中に広げていって、この状況を変えたいと思って作っているんですね。今日皆さんに観ていただいてすごくありがたくて、自由な身分の人、我々みたいに自由を享受している人が、不自由な人を助けなかったら誰が助けるのっていうことで、ぜひ皆さんには、この映画「良かったよ」って言っていただくとありがたいし、あとMakuakeでクラウドファンディングをやっていまして、日本の公開は来年決まっていますので、最後のエンディングクレジットに、ちょっとサポートしていただくと、みなさんの名前を載せますよというのもやっていますので、もしよろしければ、サポートをしていただけたらと思います。

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