2020.11.08 [インタビュー]
ホームレスの路地を描くことは、経済的に厳しい今のイランの闇を浮き彫りにすることです『ノー・チョイス』公式インタビュー:レザ・ドルミシャン(監督/脚本/プロデューサー)

東京国際映画祭公式インタビュー 2020年11月6日
ノー・チョイス
レザ・ドルミシャン(監督/脚本/プロデューサー)
ノーチョイス

©2020 TIFF

 
11歳から妊娠・出産を繰り返し、子どもを売る生活をしているホームレスのガルバハール。16歳の彼女は、愛する男のためにまた代理出産を請け負うが、いつの間にか避妊手術をされていたことが分かる。その話を耳にした弁護士のサラは、誰が手術をしたのかを探り、ある医師の名が浮上する。イランの首都テヘランを舞台に、社会の闇深さを暴く問題作。劇中のサラ同様に、この問題に切り込んだ勇気ある監督がレザ・ドルミシャンだ。
 
――この問題に取り組んだ理由は?
レザ・ドルミシャン監督(以下、ドルミシャン監督):これまでも、社会派の作品を手がけてきましたが、今回もイランの社会問題を取り上げようと思いました。テヘラン南部ではホームレスが多く、その中でも女性の人権が侵害されています。
実は国会では、そういう女性(代理出産で日銭を稼ぐホームレス女性)には避妊手術をしたほうがいい、という話があがっているんです。それはまるで犬や猫のような扱いじゃないですか。極めて人道に反することだと思い、取り上げることにしました。
 
――冒頭で出てくるような、ホームレスの人たちが集まっている路地は実在するんですか?
ドルミシャン監督:あれでも描写をソフトにしているんですけど、本当に存在します。実際にある通りでは、もっとたくさんの人間がひしめきあっていますし、ある場所では耳を澄ませると、「シャッシャッ」という音がそこかしこ。音楽のようですが、それは麻薬をあぶっているライターの音なんですね。そういう通りは、役所や警察が定期的に手入れに入るんですが、彼らは単に別の場所に移るだけです。
 
――11歳から代理出産を続けるというガルバハールの設定も、現実に基づいているんですか?
ドルミシャン監督:そうです。イランは今、経済的に厳しい状況なので、ホームレスは増えるばかり。最近ではテヘラン南部に限らず、お金持ちやミドルクラスが住む地域にも見られるようになりました。彼らの麻薬常習も問題ですが、それよりも避妊の問題はさらに深刻です。この作品のために、2年かけてリサーチをしたんですが、お金のために自分の意志で子どもを産むことができないことに疑問を感じたんです。
 
――リサーチはホームレスに直撃を?
ドルミシャン監督:はい。女性の代理出産の話はもちろん、「ホテル」と呼ばれるミニバスは、実際に見聞きしたものです。ホームレスの人々のなかには、元から貧しくて親がいない人も多いですが、ドイツ語が上手な大学を卒業している元外交官の妻だった人に会ったことがあります。そういう人は麻薬に走って転落したタイプです。無学や貧困からホームレスになった人ばかりではなく、いろいろな個人的な問題を抱えた人がいるんです。
実はこの作品に出てくるホームレスのモブは、実際のホームレスをエキストラとして雇いました。彼らにはお金を少しと食事を出していたんですが、みんな麻薬中毒だったのでハシシも助監督が買ってあげなければなりませんでした。そうしないと彼らはいなくなってしまうので、苦労しましたね。
 
――ガルバハールは出自が分からないだけでなく、IDも持っていません。こういう人も実際に多いんでしょうか?
ドルミシャン監督:IDカードがないホームレスは、イランには300万人いるそうです。それがないと、保険証もないし社会保障も受けられません。IDカード取得には父親が存在しなければならないんですが、父親が分からない場合や、外国人の場合は少なくとも5~6年かかり、途中であきらめる人も出てきます。
本作の中にも出てくるように、ソーシャルワーカーや弁護士もいますし、“House of Sun”のような支援施設もあります。彼らはすごく頑張ってホームレスの人にIDカードを取らせようとするんですが、あまりにも時間がかかることや、IDカードを持つことの意味が分からないために、なかなか社会復帰できないケースが多いんですよ。
本作の中で、弁護士のサラがガルバハールに、「あなたは子供を持つことよりもまずIDカードを持つことを考えるべきだ」と言った時、ガルバハールは「なんで?」みたいな顔をしますよね。彼女のように、知識がないばかりに「IDカードを持ったところでどうなる?」と思っている人は多いんですよ。
 
――サラのような人権派弁護士もたくさんいるんですよね?
ドルミシャン監督:大勢いますが、弁護士にはふたつのタイプがあります。命を奪う人か、命を捧げる人か。私は、命を捧げる人にたくさん会いました。こういう弁護士はボランティアで、自分の命を差し出してまで、社会にいい変化を起こそうとしています。サラのような弁護士がいることは、私たちの社会にとっては幸いですが、彼らは危険な目にも遭います。
 
――監督がリサーチしたことを俳優に伝えて演技してもらったんでしょうか。
ドルミシャン監督:俳優はもちろん美術や衣装のスタッフともリサーチにいきました。また、女性のほうが男性よりもその地域をよく知らないので、女優には何度も私と一緒に行ってもらい、女性だけが寝ている場所も覗いてもらいました。
 
 

インタビュー/構成:よしひろまさみち(日本映画ペンクラブ)
  • 対象のアジア映画を観て、プレゼントを当てよう!豪華賞品の当たるキャンペーン
  • この秋開催の第33回東京国際映画祭!上映作品チケットプレゼント FILMAGA(フィルマガ)
  • 乗って当てよう!プレゼントキャンペーン 第33回東京国際映画祭x都営地下鉄・都バス
プレミアムスポンサー