2020.11.03 [イベントレポート]
「2020年の映画祭で皆さんと一緒に観るという、世界の中で非常に稀な瞬間を今ここで共有している」11/2(月)Q&A『アンダードッグ』

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©2020 TIFF

 
11/2(月) TOKYOプレミア2020『アンダードッグ』上映後、武 正晴(監督)、森山未來さん(俳優)、勝地 涼さん(俳優)、足立 紳さん(原作/脚本)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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矢田部吉彦SP(以下、矢田部SP):前後編、本日はご覧いただきありがとうございました。改めましてゲストの皆さんをお迎えしたいと思います。映画『アンダードッグ』の武 正晴監督、森山未來さん、勝地 涼さん、そして原作・脚本の足立 紳さんお願いします。足立さんから一言ご挨拶をお願いします。
 
足立 紳さん(以下、足立さん):足立です。今日はこの遅い時間にこの長い作品を、お尻も痛くなった方もいたかと思います。本当に来てくださりありがとうございます。心から感謝します。
 
矢田部SP:ありがとうございます。早速皆さんからご質問をお受けしたいと思います。
 
Q:森山さんに試合の撮影はしんどかったか楽しかったか、感想を教えていただけたらと思います。
 
森山未來さん(以下、森山さん):楽しかったですね。試合の内容というか、全然モチベーションが違う状況でもあるし、ただ試合をしている状況ではないので、やはり相手とどう向き合うのかっていうので、どちらも滾るものがあります。
 
Q:監督に俳優さんのカラーの違いみたいなことがあればお話し頂きたいです。
 
武 正晴監督(以下、監督):現場で演出すると言う事は、キャスティングするところから演出だと思っています。台本の中に書かれている役を捕まえて、誰にするかという事が実は一番の演出です。ここが崩れると大体上手くいかない。シナリオの上がった段階で、森山さんと北村さん、勝地さんと名前が挙がっている中で、その次(の候補というのは)なかったです。もうそこで決まっていったというか。その役柄にあっている人たちをチョイス出来ました。あとは演者がどういう風にそこにフォーカスを当てていくかというバランスを、現場でやっていくということがありました。ただ、こう言ってはどうかと思うのですが、これだけの俳優さんたちなので、芝居はなんとかなるよなと。だからあんまり芝居の話はしなかったです。ボクシングのことばっかり話していました。これだけの人たちなので、あとはボクシングというところでしたね。それはトレーナーの松浦さんを含めてスタッフが本当によくやってくれていたと思います。
 
Q:足立さんにどのようなリサーチをされたのか、どんなものを込められたのかということをお伺いしたいです。
 
足立さん:DVやデリヘルなどの部分はこの作品の為というよりは、虐待にしても別作品とかでもこういったものをやりたいと考えていたり、取材をしていたりしたものがあり、自分の中でずっと考えていました。この『アンダードッグ』という作品を作ろうという時に、じゃあ最初の主人公の設定をどうするか、かなり中途半端な生き方を、相当中途半端な生き方をしている人間が一人いて、そいつが這い上がる為には、それ相応の何かが彼に起きないといけない。彼自身の身に降りかかるものとして、かなり厳しい状況に彼をおきたい、そこから彼が自分自身の甘えやそういったものを直視することで一歩を踏み出せる、というやつにしたいと思い、それで彼の周りに厳しい状況に置かれている人間を配置しようという風に思いました。
 
Q:対戦相手とのシーンで、セコンドのセリフはアドリブだったのかをお聞きしたいです。
 
矢田部SP:セコンドとの関係の中での印象的なことですよね。
 
森山さん:僕が演じた主人公“晃”が少し落ちぶれているし、会長との関係性もあまりいい状態じゃないしという中での試合だったので、だからフォローがないという空気感はその撮影中にもすごくあって、かたや対戦相手のセコンドは本当に親身に寄り添っているし、そしてもちろん後半の試合では、会場ともすごく繋がっていきますが、セコンド役は松浦慎一郎さんといってボクシング全体の構成とかトレーナーを全員見知ってくれている人なのです。だからずっと「いいなぁ、あの人がそばにいてくれたらどんなに心強いか」って思っていました。ボクシングを熟知しているので、もうその場で声が出ているのがものすごく見えているんですよ。だからそういう部分でも僕はずっと追い詰められていた感覚はありましたね。
 
勝地 涼さん(以下、勝地):僕はすごい力強かったです。やはり演じていたロバートの山本さん(山本 博さん)は芸人さんであり、本当にプロボクサーになられて試合に出てという経験を持っていらっしゃるので、山本さんと最初練習する時に中途半端な感じで臨んでいたら信頼関係が出来なかったと思うので、僕は結構思いっきりぶつかっていきました。そうしたら山本さんに「ここまでちゃんと頑張ったんだね」って言ってもらえたので、それで信頼関係が出来ました。だから撮影している時にも、セリフじゃない言葉をガンガン言ってくれましたし、1ラウンドごとにはけて椅子に座った時にも、ケアの仕方にはすごく安心感がありましたね。
 
矢田部PD:芸人でありボクサーでもあるということで彼から、内面的な役作りのことや何かインスピレーションを受けたりされたのですか。
 
勝地さん:「僕はもともとボクシングが好きだったし、もうそろそろプロテスト受けられなくなる年齢も来るから、ちょっとチャレンジしようと思ったんだよね」くらいの話しかしてもらえなかったです。でも本当はもしかしたらと思ったことがあったり、芸人さんとして何か思っていたとか、今ここで何か一花咲かそうとか、何かまた違ったことでとか、なんか色々転換しようと思ったとか、何か絶対あったはずなんですよね。そこまで全部を聞けるほど突っ込めなかったのですが、何かがあるだろうなとは思いました。ちゃんと試合した動画を観させてもらいましたけど、そのときの笑顔とか、歓声、試合で戦う姿には正直グッときました。
 
Q:脚本は役者さん決まって当て書きで書かれているのか。二ノ宮隆太郎さんの役について。
 
監督:足立(紳)さんの書いたシナリオで、アドリブはほとんどないです。二ノ宮隆太郎さんの部分は全部台本通りにどこで言葉が詰まるとかも、ほぼ完璧にやっています。アドリブはないですね、台本通りです。あの本を読んだとき『全裸監督』っていうのをやっていまして、中でもちょっと重要な役があり、少し悩んで誰にしたらいいんだろうって思ってるときに、足立さんから「二ノ宮くんが出てる『枝葉のこと』(17)っていう映画が面白かった」「とんでもないやつがいるよ」っていう話を聞いて、チンピラ役でオーディションに呼んだんですね。ちょうどその時に台本を、僕ももう『アンダードッグ』の本を読んでいたので、その次の木田って役は、「こいつしかいないな」っていう感じで、プロデューサーに推薦したのを覚えています。二ノ宮くんが『全裸監督』の時にNGを出しまくったことがありました。もう完全に飛んでしまって。僕はそれに対して別に何も言わず、淡々とみんなでやってきたんですけど、何年振りかに会って『アンダードッグ』のキャストの顔合わせで来た時に、入ってくるなり「あの時は失礼しました」って、なんか土下座したのを覚えていますね。「何をやっているんだろこの人」って思っていました(笑)。「あんな大失態をしたのにまた呼んでいただいて」なんて言っていましたけど、本当に今作品の彼は見事だったと思います。森山さんとのコラボというか、熊谷(真美)さんとか、借金取り、やくざのやりとりとか、ああいうところも本当に見事にやってくれて。非常に大きな役で、難しい役だったと思います。
 
矢田部SP:監督、熊谷さんが会場にいらっしゃるそうですが、監督から手を振ってくださいとお願いしていただいてよろしいでしょうか。
 
監督:どこにいらっしゃいますか。マスクしてると分からないですね。ありがとうございます。(熊谷)真実さんも最高でしたよね。配信版はもっとすごいですよ、この二人の話もまだ(増えて)きたりとか…。
 
矢田部SP:それでは最後に、メッセージをまず森山さんからお言葉頂戴できますでしょうか。
 
森山さん:長丁場、ありがとうございました。11月27日から全国で公開ですが、皮肉にもコロナも相まってしまって、ある種生きることとか、こうやって立ち続けていることに困難な気持ちを感じる人たちもいる中で、そういう人たちがもう一歩前に進む、立ち上がろうとするきっかけになるような、ボクシングが素材にはなっていますが、勝ち負けを超えたその先にある何か、そういうきっかけを掴む、後押しになる映画になっているんではないかなと思っています。拡散よろしくお願いいたします。ありがとうございました。
 
監督:先ほど女性の方でセコンドってところでご質問がありましたが、ボクサーにとっては対戦相手も必要ですし、ひょっとするとセコンドにとってボクサー、ボクサーにとってもセコンドっていう関係性が必要になってくる。これがボクシングの魅力なのかなと思います。人間社会における、残酷なスポーツではありますけども、その中でそういうものを表現したかった。未來さんも言いましたけども、こういう時期にこの映画をまさか完成できて、2020年の映画祭で皆さんと一緒に観るという、世界の中で非常に稀な瞬間を今ここで共有しているという風に思っています。「2020年の東京国際映画祭でこの映画をみんなで観てるぜ」っていうのを「世界に観てもらいたいな、知ってもらいたいな」とも思っています。特に感じたのはやはりボクシングの試合における観客の存在は、ボクサーにとっては非常に大きいんじゃないかなと、そこは思いながら撮っていましたが、そういう思いがこの年にまた通じていくんじゃないかなって思っています。映画というのは、やっぱりお客さんがいないと映画にならない。今日その瞬間に立ち会えたのを本当に幸せに思っていますので、どうぞ、皆さん、この映画がどういうものであったかというのを色んな人と語り合ってくれれば幸せと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。今日はありがとうございました。

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