2020.11.03 [イベントレポート]
「その先でどう生きているのかを映画で追いかけてみたいというのが最初のきっかけ」11/1(日):Q&A ワールド・フォーカス『海辺の彼女』

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©2020 TIFF

 
11/1(日)ワールド・フォーカス『海辺の彼女たち』上映後、藤元明緒(監督)、岸 建太朗(撮影監督)、渡邉一孝(プロデューサー)が登壇して、Q&Aが行われました。
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矢田部SP:ゲストの皆様をお呼びしたいと思いますので大きな拍手でお迎えください。藤元明緒監督、撮影監督の岸 建太朗さん、そしてプロデューサーの渡邉一孝さんです。
 
藤元明緒監督(以下、監督):ありがとうございます。光栄でございます。
 
矢田部SP:本当にこの素晴らしい作品。サン・セバスティアン国際映画祭ではワールドプレミアを果たして、最初に観たときに感動いたしました。皆様から一言ずつご挨拶のお言葉をいただけたらと思います。まず藤元監督、お願いいたします。
 
監督:初めまして。監督をしました藤元と申します。
東京国際ではですね、3年前『僕の帰る場所』という映画で「アジアの未来」に招待してもらって、3年ぶりにこうしてまた六本木で上映できるということを本当に感謝しております。本当に皆さん今日はありがとうございました。
 
矢田部SP:ありがとうございます。そして本当にリアルな映像を届けてくださいました撮影監督、岸 建太朗さんお願いいたします。
 
岸 健太朗(以下、岸さん):本日は『海辺の彼女たち』の上映にお越しくださいまして本当にありがとうございます。撮影監督を務めさせていただいた岸 建太朗です。よろしくお願いいたします。
 
矢田部SP:そして国際共同制作を可能にすべく奔走されているプロデューサーの渡邉さんお願いいたします。
 
渡邉一孝(以下、渡邉さん):プロデューサーの渡邉一孝です。今日はありがとうございます。ワールドプレミアをサン・セバスティアン国際映画祭というところでやらせていただきまして、またアジアンプレミア、ジャパンプレミアの方で東京国際映画祭にまた帰って来れて、本当にうれしく思っております。
今年はコロナの状況で映画を完成することも、また上映することも綱渡りだったんですけれども、こうやって皆さんと共有できたことを嬉しく思います。今日は短い時間ですがよろしくお願いいたします。
 
矢田部SP:ありがとうございます。実はですね、本日、女優の方々から、メッセージが届いておりまして、渡邉プロデューサーの方から代読いただければと思います。
 
渡邉さん:代読いたします。最初に、三人のうちのアン役から「アン役を演じましたトゥエ・アンです。この映画に参加できて素晴らしい経験をしました。皆さんに映画を気に入っていただければとても嬉しいです」というコメントをいただいています。
続きましてニュー役のニューから「こんにちは、こんばんは。ニュー役を演じましたクィン・ニューです。映画を観てお客さんに何かしらの感情が沸き上がることを期待します。そして映画を気に入っていただけたらとてもうれしいです」
 
矢田部SP:今のお二人がお友達のお二人ですね。
 
渡邉さん:そうです。最後に主演のフォンですけど「主演のフォンです。この度の映画祭の上映に当たっては映画チームの皆さん、おめでとうございます。また、本日駆けつけていただいたお客さんの皆さん、ありがとうございます。そして日本に住み、働き、学ぶ外国人の方々に敬意を表します。皆さん映画祭で良き時間をお過ごしください。」とコメントをいただいております。以上になります。
 
矢田部SP:昨日監督からお伺いしましたが、もともとベトナムということに決まっていたわけではなくて、アジア各国でオーディションをした結果、ベトナムの女優さんたちがよかったから決まったそうです。そのプロセスをおきかせいただけますか。
 
監督:アジア各国から選ぼうという意思があって、最終的にベトナムに行って、という形でしたね。前がミャンマーという国で撮っていて。矢田部さんですかね…、何かの打ち上げで、次ミャンマーで何撮るんですかみたいな話がありまして。なんかミャンマーキャラ(笑)みたいになっちゃったので、次はミャンマー以外っていうのは最初からあったんですね。その中でフィリピンであったり、タイの方とかインドネシアとかベトナムの方。広い範囲で決めていこうっていう形で最初はスタートしました。
そのまま3人でちょうど1年前の6月にベトナムに行ってみようということで。100人くらいの方をオーディションさせていただいて、無事3人が見つかったので、そこからもう企画がガーっと走り出したという感じでした。
 
矢田部SP:結果的にベトナムになったということですが、ベトナムという国がバックグラウンドにあることは映画の脚本に何か別の特別な側面を与えましたか。
 
監督:そうですね、特に今回『海辺の彼女たち』で描いているような実習生の方が日本にいてっていう、ベトナムの方の数が多くなっていて、そこの時代性がテーマとマッチングしていたのではないかなというのはあります。
 
矢田部SP:実際の日本で職業訓練というような形で来ているベトナムの方々に取材はされたのでしょうか。
 
監督:そうですね、そういった方々であったり、ベトナムの方々を支援している日本の方であったり、いろんな方面から話を聞いたり。
もともとこの企画を始めようと思ったのが2016年くらいで、ミャンマー人向けに日本のビザの情報とか僕の奥さんと一緒にミャンマー語で発信するっていうことをしていて。
そこのSNSを通してある実習生の方が、職場が朝から晩までで全然だめで逃げたいんだけど何とかしてくれないかという相談を受けて、結構いろいろやったんですけど結局助けることができなかったんです。もう東京に行きますということで。東京に出た時点でビザであったり資格とかが変わってくるので、本当は良くないんですけど。そのままその女性の方がどこに行ったか分からなくなったという経験があって。そこから、彼女は地方から東京に行ったんですけど、どうしようかなと。逃げたとかよくニュースであるんですけど、その先でどう生きているのかというのを映画で追いかけてみたいなというのが最初のきっかけですね。その方はミャンマーの方でした。
 
Q:雪を見たり、あるシーンでの表情などはドキュメンタリーのようでしたが、どのように演出と撮影を工夫されたんでしょうか。
 
監督:確かに雪を見るというのは普段ベトナムで暮らしている彼女たちにとって初めてでした。その感覚というのも活かしながら、最初はキャッキャ楽しむんですけど大体3日ぐらいで来たことを後悔するような感じのテンションになっていて、そこからやっとこの映画にマッチングしてくるというように、実際に感じた寒いとか雪であったりというような体験を忘れないでもらって、映画の中でも同じように体験してもらうっていうのを役者の方と話しながらやっていましたね。でもそんなに短い感じでテイクは撮ってないですね。色々申し訳なかったんですけど、ものすごい長回しをしていたり・・・
 
岸さん:最長2時間半くらいずっと回しっぱなしとか。最後のシーンとかは結局1回リスケしたんですよね。
 
監督:そうですね、1回撮ってから・・・
 
岸さん:藤元監督の中で納得がいかなくて、色んな意味でまだ詰めたいということで、1回バラして翌日やったりとか。スープを飲むシーンだけで10何テイクは撮っている。あのワンシーンで丸2日間やったりとか。わりと僕らは自主製作というかミニマムな現場なので、スケジュールが決められている中で消化していく試合とかじゃなくて、1度現場で撮影してみて、その中でまたディスカッションしてどう生まれてくるかっていうのは、なるべく取り入れてましたね。そこが俳優とのコミュニケーションのひとつでしたね。
 
矢田部SP:岸カメラマン、屋外シーンでの大変だったエピソードは?
 
岸さん:今年はですね、まあ全国的に暖冬だったので、僕らが撮影させていただいた青森の外ケ浜町っていうのは陸奥湾の内側で、だいたいまあ例年は1メートルぐらい積もるんですけれども、なんとですね、40歳くらいの方に聞いてもこんなの見たことないっていうくらい雪が無かったんですよ。
 
監督:50年ぶりぐらいらしいですね。
 
渡邉さん:撮影の5日前に役場の方が撮った道の写真を見せられて「本当に撮影に入るんですか?」っていう風に言われたくらいです。
 
岸さん:ですからその大変さをひとつ挙げるとですね、雪が降っていなきゃいけないシチュエーションで雪が無いので、雪を集めてきて撮ったりっていうのが、ありました。そこが僕らの予想に反した大変さがありまして。ちゃんと雪が降ったのは全体の3日間ぐらいだったんです、僕らが1か月近く滞在してる間に。やっぱり日中暑いと雪が解けてしまうので。そこが凄く苦労したところでした。
 
監督:とはいえ、冷たい水たまりとかあるので、やっぱりカメラマンって脱がないといけないんですよね。
 
岸さん:僕は裸足でずっとやってました。
 
矢田部SP:ええ!
 
監督:ちょっと大変なことになってました。
 
岸さん:もうあの感覚が途中で、まあだんだん人間慣れてくるので、痛覚とかもなくなっていって。
 
監督:あのすごい長い線路を主人公が歩いていく、っていう。浸かっているのはあそこだけなんですが、永遠のように続くので、あのシーンはちょっと岸さんの気合を見ました。
 
矢田部SP:命がけのリアリズムが漂っていたと思います。
 
Q:彼女たちが不公平な扱いを受けているという悲劇をきっかけにストーリーが展開していきますが、なぜその部分を見せなかったのでしょうか?
 
監督:ああいった人たち、女性とか、まあ男性もそうなんですけど、既存の決められたルールから抜け出した時に、何が待っているのか、どう生きていかなければいけないのかっていうのにどっちかというとフォーカスしたかったんです。何が問題で、どういう過酷さっていうのは、特に実習生に何が行われていたか、不当な扱いをしていたかっていうディテールについては、もうかなり日本の中でも語られていることだと僕は判断したんですね。あまり語られていない、出て行った先とか。色んなメディアのニュースとかあるので、組み合わせで、どんどんこの映画が、浮き彫りというか、立ち上がっていけばいいなと思いました。映画だけで完結するっていうよりは、コラボレーションというか、そこを信じたいなというプロット、脚本の流れにしました。
 
Q:ラストに至る監督の思いを教えて下さい。
 
監督:本当にそのラストシーンについては、スタッフ一同やっぱりこう、結構シビアなシーンといいますか、そのすごい話し合って何回もミーティングをして、あのシーンは生まれたんですけれども。ラストのシーンで主人公のフォンさんと初めて出会ったような気がしたんですよ。たぶん覚悟が見えた瞬間を、僕はもしかしたら撮りたいっていうか、そこに寄り添っていたかったんじゃないかな。撮影の時は結構、ふんわりしていたんですね、そうじゃないかなぐらいの感じだったんですけど。編集をした時に確信しました。本当はまだ撮っていたんですよ、いろいろ。でもあそこで僕らの視点と、フィクションではあるんですけど実際にああやって暮らしている人たちがこう映画と交流するというか、不思議な感覚になりまして。エンターテインメント的にはどうなのかっていう面はありました。それでもサン・セバスティアン国際映画祭で上映したときに、口を揃えて言ってもらったのがあのラストシーンのことで、みんな色んな意見をくれて、伝わってる感じがしました。僕の思いというかが、そういう感じです。
 
矢田部SP:最後のシーンで、女優さんたちはディスカッションには入りましたか?
 
監督:そうですね、ラストに限らず頭から、結構ディスカッションをしながらやりましたね。その前に、脚本とか構成表とか書くときに、まあどうなのかとかすり合わせをしながらやっていましたね。
 
矢田部SP:酷な質問なんですけれども、ああいった仕事を裏で斡旋する、シンジケートというかコミュニティというのはあるんですね?
 
監督:そうですね、ベトナムにたぶん限らず。ミャンマーでも。
 
矢田部SP:ぜひ残り2回の残りの上映も周りの方に勧めていただきたいと思います。
 
監督:3日はブローカー役のダンさんっていう人が、青森から来ます。
 
渡邉さん:9日のチケットがあと少しだけ残っているので。2021年に公開を予定しておりますので、面白いなと思ったら周りに広めていただければ嬉しいです。
 
岸さん:僕、別の映画の撮影監督もやっておりまして『鈴木さん』という映画が2日と6日に上映が行われまして、ご興味ある方はぜひ。
 
矢田部SP:素晴らしい映画です。今日の映像のタッチとはまた違う、色んな面が観られると思います。監督、お言葉ちょうだいできますでしょうか。
 
監督:こうやって面と向かって、お話しできたり、映画館で交流できるっていうのは、いつもならちょっと忘れてしまいがちなんですけれども、本当に今回感謝の気持ちでいっぱいです。ずっとステイホームしていると、あまりこういう機会もないので。本当に映画って人と人を繋げるっていうのを改めて映画祭を通して実感して。本当に、いろんな映画を観ていろんな感想があがるっていうのを僕はすごい楽しみにしております。今日は本当にありがとうございました。

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