2020.11.02 [イベントレポート]
橋本愛、『はちどり』監督と死生観の一致に感激 是枝監督「二人を出会わせたかった」
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是枝裕和監督(左)、キム・ボラ監督、橋本愛
©2020 TIFF

第33回東京国際映画祭と国際交流基金アジアセンターによる共同トークイベント「「アジア交流ラウンジ」キム・ボラ×橋本愛」が11月1日に開催され、橋本愛とモデレーターを務める是枝裕和監督が都内会場で、韓国映画『はちどり』のキム・ボラ監督とオンラインで語り合った。

「二人を出会わせたかった」という是枝監督は、「キム・ボラさんの『はちどり』が素晴らしく、性別のことを言うのはあまり良くないのかもしれませんが、韓国から鮮烈な女性監督が現れ、こんな繊細な映画を作る監督にお会いしたいなと思った」「橋本さんは「ミニシアターを救え」という、コロナ禍で起きた動きに賛同していただき、インタビューではご自身の映画館への愛を語っており、映画もたくさん見ていらっしゃる。もしキム・ボラさんが日本で撮ることがあれば、橋本さんに出てもらえたらいいなと、僕が勝手にプロデューサー気分になって」と理由を語る。

『はちどり』は1990年代の韓国を舞台に、キム監督の実体験をもとに、思春期の少女の揺れ動く思いや家族との関わりを繊細に描いた人間ドラマ。喪失をテーマにした本作に深い感銘を受けたという橋本は「(主人公の)ウニが、突然の別れや、気持ちの変化に翻弄されながらも懸命に生きている姿に感激しました。私は今は落ち着きましたが、ウニと同じ年齢の頃は、毎日毎秒気持ちが変わっていた。昨日好きでも今日は嫌いになった人もいて、失ってきたものも、傷つけた人も、傷ついてきたこともたくさんあることを思い出しました。でも今、私はこの世界に対して希望を持っていて、映画の最後の「世界は不思議で美しい」という言葉が、今の自分の感覚に重なって勝手に涙があふれてきました」と思いを込めてキム監督に感想を伝えた。

キム監督は「私は生と死を常に考えています。私たちは毎日生まれて死にます。太陽や月が昇って沈むように、人間も新しく生まれて死んでいくという、その繰り返しを映画の中に込めたいと思っています。橋本さんはその私の気持ちを受け止めてくれたと思います」と返答。橋本が主演した『リトル・フォレスト』のシーンを挙げ、「伝統的な舞を踊っていた橋本さんの表情は、多くのことを経験し、成長した後の顔が現れていました。『はちどり』のエンディングと『リトル・フォレスト』のエンディングが重なったようで感動しています」と、この日のわずかな対面と、互いの作品を通して心が通じ合ったことを確信したようだった。

橋本は途中で涙も見せながら、キム監督の内面世界への共感と感謝を丁寧に伝え、作品のディテールに迫る質問を繰り広げた。また、イベント終盤にはオンラインで鑑賞していた観客から、コロナの前後で変化したことについての質問が寄せられた。

キム監督「映画館がなくなってしまうのではないかと多くの方が心配されていますし、私もそうなっては欲しくはないので前向きに考えていきたい。抽象的なことになりますが、私はコロナ流行以前よりも人間のつながりをより深く考えるようになりました。コロナは呼気で感染する病気。呼吸することで他人と空気を共有していることを改めて知り、創作者としても、私の行動一つ一つが他者に影響を与えうるんだと考えるきっかけになった」

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橋本愛
©2020 TIFF

橋本「物理的な変化は感じていますが、生きている感覚は全く変わっていません。日々、いろんな理由で人間は死んでいます。それを毎日感じて、自分もいつか死ぬ、大事な人がいなくなるかもしれないという恐怖がありました。それがコロナで顕在化したけれど、私にとっては通常運転です。また、映画を見る意識が観客として変わりました。映画館は、今まではいつでも待っていてくれる場所という感覚だったけど、劇場を運営する方々の血のにじむような努力があるとわかった。ちゃんと足を運んで、お金を払わないと消えてしまうという意識が強くなりました。先日、半年ぶりに劇場に行ってとても快適だったので、これからも映画館でたくさん映画を見たい」

トークイベント終了後の会見に応じた橋本は、「一個人として、キム監督の死生観や、人はみんなつながっている、同じだ、という思想に共鳴しました。私が感じていることや考えていることと同じことを考えている人が、同じ国ではないけれどこの世界にいるんだとわかって救いになった。この映画を通して、キム・ボラさんという方と繋がり、この関係性が私がこれから生きる上の支えになったことがとてもうれしい」とこの日の巡り会いを感慨深げに振り返った。

予定時間を大幅に超過し、熱を込めて語り合った二人の姿を見守った是枝監督は「初回ですし、自画自賛するのも何ですが……僕は直感で選んだキャスティングに自信がある。今日選んだお二人は大正解だったと思います」と締めくくった。

トークシリーズ「アジア交流ラウンジ」は8日まで毎日ライブ配信される。Zoomビデオウェビナー(登録無料)で視聴可。第33回東京国際映画祭は、11月9日まで開催。
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