2020.11.07 [インタビュー]
復讐などのために戦うのではなく、自分の夢のために戦う女性を撮りたかった『スレート』公式インタビュー:チョ・バルン(監督/脚本/編集)

東京国際映画祭公式インタビュー 2020年11月6日
スレート
チョ・バルン(監督/脚本/編集)
スレート

©2020 TIFF

 
“悪と戦うヒロイン”に憧れてアクション女優になることを夢見るヨニ。ある日、スタントとして参加した撮影現場でパラレルワールドに迷い込んでしまい、そこで独裁者に虐げられた村人を救うべく戦いを挑むのだが…。
不良高校生が大暴れをするアクション・コメディ『学園ギャング』(19年)で長編監督デビューを果たしたチョ・バルン監督の第2作『スレート』は、女性が見事な剣さばきを披露するアクション活劇。自他共に認めるシネフィルで、31歳の新鋭チョ・バルン監督に、お話を伺った。
 
――西部劇のシチュエーションで繰り広げられるヒロインの活躍は痛快で、クエンティン・タランティーノや三池崇志など、様々な監督のテイストも感じられてワクワクします。
チョ・バルン監督(以下、チョ監督):実は出資してくださる投資会社の方から、大友啓史監督作『るろうに剣心』のような剣術映画を撮ってみないかと提案をいただきました。私も『るろうに剣心』は大好きだったのでお話に食いついて、誕生したのが今回の『スレート』です。
 
――パラレルワールドのアイデアは?
チョ監督:本当は過去の時代を背景にした物語をじっくり撮りたかったのですが、製作費が少なくて(笑)。悩んだ末に、タイムスリップという形式をとることにしました。完全な過去ではなく、タイムスリップを利用することで、低予算でもいろんな人が戦うような剣術作品が撮れるのではないかと判断したのです。
 
――キー・アイテムにもなっているタイトルの『スレート』は、日本の“カチンコ”ですが?
チョ監督:私は映画が大好きですから、背景もアイテムも映画からインスピレーションを受けるとことが多いのです。
 
――初監督作『学園ギャング』は男子高校生が大暴れでしたが、今回はアクション・ヒロインが大活躍していますが。
チョ監督:実は『学園ギャング』は私が撮りたくて撮った作品ではないのです。当時、三池崇史監督の『クローズ ZERO』のような学園モノを撮ってみないかという依頼があったのですが、一度はお断りしています。もともと私が撮っていた短編映画などは女性にスポットを当てた作品ばかりでしたから。でも「長編映画デビューをしたい!」という気持ちが膨らんで、お引き受けしました。結局、あの作品のおかげで2作目も声をかけていただくことができたのですから感謝です。そして、次は女性を主人公にしたいと強く思っていました。
それは、多くのアクション映画の中で女性が戦う理由が、愛する人のために復讐するとか、子供を連れ戻すために敵を倒すということになっています。私としては、どうして自分の夢のために戦う女性がいないのだろうと思っていました。ですから『スレート』の主人公は、子供のためとか恋愛を成就するためではなく、あくまでも自分の夢を叶えるために戦う女性にしたかったのです。
 
――スタイリッシュな剣術で敵を倒すヨニの姿は、クエンティン・タランティーノ監督作『キル・ビル』のユマ・サーマンや、アン・リー監督の武侠映画『グリーン・デスティニー』のミシェル・ヨーを彷彿とさせます。
チョ監督:そう言っていただいて、本当に嬉しいです! もちろん影響を受けていますし、当然、タランティーノ監督の『キル・ビル』は外せません。でも、剣劇のスタイルの面では西部劇を意識しました。撮影監督と話し合って、銃を使わないけれど絵的には西部劇のようなシーンを作りたいというコンセプトで撮影をしました。ですから絵的にはタランティーノ監督の『ジャンゴ』や三池崇史監督の『初恋』といった作品を参考にしています。
 
――第2章「ALICE IN WONDERLAND」第3章「THE UNEXPECTD DISCOVERY」などチャプター構成も効果的ですが?
チョ監督:西部劇ではしばしば字幕=解説文字が出てきますが、それもひとつの絵だと思います。そして、西部劇の雰囲気を出したいと悩んだ時に思いついたのがチャプターでした。チャプターごとに分かれていれば、いろんな話が盛り込める。さらに観客が退屈かなと思った頃に、チャプターがバーンと出て新しい印象の画面が入って盛り上がる。ありきたりなストーリーであっても、チャプターで分けるとことによって観客の気持ちを掴めると思いました。
 
――ヨニ役のアン・ジェヘさんとの出会いは?
チョ監督:去年、ハロウィン・パーティに参加した時にあるエンターテインメント会社の代表の方にお会いしたのです。私は『スレート』の構想を練っている最中だったので「スタントができて、演技のできる女優さんはいませんか?」と相談したところ、アン・ジヘさんの映像を見せてくださったのです。武術訓練や演技をしている映像だったのですが、ここまでできる人がいるんだと驚いたのを覚えています。
 
――実際にお会いした印象は?
チョ監督:思っていた以上に控えめで、物静かで、繊細な方でした。でも事前に見た『アワ・ボディ(Our Body)』での演技も素晴らしかったので、ぜひ出演して欲しいとお願いしました。
 
――製作過程で一番難しかったのは?
チョ監督:最初から撮影期間が16日間と決まっていたので、あれこれ撮りたいシーンを削いでいく作業が難しかったです。
 
――作品を見るだけで監督がシネフィルであることがわかります。どんな生い立ちですか?
チョ監督:父が映画マニア、生粋のシネフィルで、家にはビデオとか漫画がたくさんありました。そんな中で育った私は、7歳の頃から映画を愛し、夢は映画監督になることでした。ですから、これまでのお話で登場した監督たちはもちろん、たくさんの監督から影響を受けています。とりわけ、心から尊敬しているのは、ポン・ジュノ監督と是枝裕和監督です。
 
――略歴には英国人監督としても活躍しているとありますが、現在の拠点は?
チョ監督:韓国生まれですが、子供の頃に移住した英国で11年ほど暮らし、その後、3年前に韓国に戻りました。いまは韓国を拠点として、すでに次回作の準備も進めています。それは、映画ではなくドラマなのですが、ジャンルはホラーでそれはおどろおどろしくて怖い話です。
 
――敬愛するポン・ジュノ監督はシニカルなホラーの名手ですが。
チョ監督:今のところはすごく楽しめる面白いジャンル物を撮りたいという欲望が大きいです。いつか私自身がシニカルな人間になったら、シニカルな作品を撮りたくなるかもしれませんが。それも楽しみです(笑)。
 
 

インタビュー/構成:金子裕子(日本映画ペンクラブ)
プレミアムスポンサー