2020.11.07 [インタビュー]
ラブストーリーを通して1980年代の改革開放の中国を描きたいと思った『恋唄1980』公式インタビュー:メイ・フォン(監督/脚本)

東京国際映画祭公式インタビュー 2020年11月6日
恋唄1980
メイ・フォン(監督/脚本)
恋唄1980

©2020 TIFF

 
1980年代初頭、北京に住むジェンウェンは兄のクラスメイト、マオジェンに恋心を抱く。兄の急死に衝撃を受けつつ大学に進んだジェンウェンは、再会したマオジェンに心の内を伝えられぬまま、奔放な女性タン・リーリーと変化に富んだ大学生活を送ることになる――。前作『ミスター・ノープロブレム』で第29回TIFFコンペティション最優秀芸術貢献賞に輝いたメイ・フォンの監督第2作は、于暁丹の小説「北京1980」を自ら脚本化。スケールの大きな愛の物語に仕上げた。
 
――まずこの原作を選ばれた理由からお聞かせください。
メイ・フォン監督(以下、メイ監督):原作が文学作品であることが重要です。物語の完成度が高く、多くの読者がいて、作品に対する評価もすでに高い。世に認められている原作を映画化するのは、安定した土台ができているということです。映画にとってはとても良いことです。
 
――監督がこの題材に惹きつけられた一番の要素は何でしょう?
メイ監督:何よりこの原作はラブストーリーです。今の若い人たちにとって、1980年代という時代は遠い昔のことで、よく理解できていません。でも、ラブストーリーを通して1980年代の改革開放の時代の中国に誘い、当時の若者たちの暮らしを通して時代を描き出しています。この時代を回顧することに魅力を感じました。
 
――監督は1968年生まれなので、12歳以降の多感な時期にこの時代を経験されましたね。
メイ監督:私は1986年に北京電影学院に入学しました。ここに描かれている時代は、ちょうど私が北京へ行く4年前の設定です。1980年代という時代は、改革開放で国の門が外に開かれて、若い人たちが今まで見たことのない外の世界を知ったのです。
これがもたらす変化は今までの時代とは全く違うものでした。若い人たちの感情、情感、あるいは彼らの体験を作品に描く。私にとってはある種の衝動のようなもので、そこに情熱を感じたわけです。
 
――映画には、大島渚の『愛のコリーダ』や名曲「レッド・リバー・バレー」などが挿入され、海外からの影響を示しているように思われました。
メイ監督:この映画で使われた、外国の映画や音楽は、実際に当時中国で見聞きしていたものです。小説でも、これら外国作品は、特徴(符牒)として描かれていました。
私は『愛のコリーダ』を、北京電影学院の研究生のときに観ました。この作品は愛や情を描くことで時代や歴史を映画に記録しています。私は大島渚監督の映画が大好きなのです。
 
――ここに登場する若者たちは、古いモラルから解放されることで自由を謳歌するとともに、そのことに戸惑っているという印象を受けました。
メイ監督:そうですね。1980年代に中国の社会全体が大きく変わりました。若い人たちは自由を謳歌しましたが、今振り返ると「自由な時代」というのは精神的な意味で、とても抽象的でした。現実には個人は日々さまざまな問題に直面し、異なる境遇で問題をどう解決するのか、戸惑いがありました。
映画で描かれているのは就職前の学生で、自分たちの感情、愛に悩みます。ただここの部分をあまり具体的に描かずに、映画の雰囲気、情感みたいなものを前面に押し出しました。私はそれを、映画の持っている気質と呼んでいます。精神的な側面から見れば、若い人の情熱や未来の期待みたいなものが感じ取れると思っています。
 
――前作もそうでしたが、時代の情感を映像に焼き付けることに腐心されていますね。
メイ監督:確かに私の映画には時代というものが描かれています。前の作品は1940年代、この作品は1980年代。つまり「歴史」というテーマを扱っているのです。ただ映画は当時を100パーセント再現できません。ある種のフィクションを通じて歴史を抽象化し、キャラクター、ストーリーの展開を通して披露する。このような考えで挑んでいます。
 
――今回の作品は、北京から内モンゴルまで舞台が移っていきます。製作的にも大変だったと思いますがご苦労はありましたか?
メイ監督:今の北京では1980年代の痕跡を見つけるのが非常に難しいのです。私たちは初めから北京はあきらめて、大連と旅順でロケーションを敢行しました。皆さんが映画の中で見た大学は大連、旅順にあった1970年代の工場の跡地です。
一番苦労したのは、内モンゴルでの撮影でした。交通が不便だし、撮影に行ったときはすでに11月で非常に寒かった。クルーの皆にとっても大きなチャレンジでした。
 
――キャスティングにあたっては、どんなことに留意されたのでしょう?
メイ監督:まず主役の男性、リー・シェンですが、早い段階で決めました。北京電影学院の演技科で学んだ学生です。兄の恋人役のジェシー・リーも、早い段階で決まりました。彼女は香港映画『九龍猟奇殺人事件』(15)がデビュー作で、高い演技力の持ち主です。
難しかったのはタン・リーリー役でした。原作では情熱的で自由奔放で、愛の表現も独特だったので、この役を演じられる女優さんはなかなかいませんでした。でも幸いなことに、このマイズという女優を見つけました。結果にとても満足しています。
 
――監督をされるのはこれが2作目ですが、必ず原作のある題材を監督されるのですか?
メイ監督:必ずしも文学作品にこだわりはありません。興味深い面白い物語、あるいは題材、テーマ、特に中国の現代社会を表現できるようなテーマがあれば、自分の脚本で映画化したいと思っています。
ただ、時間をかけてオリジナルの脚本を書いて、製作スタッフと話し合う、それだけのことをひとりでやるのは今となっては難しい。今後、優秀な脚本家がいればオリジナル脚本でやっていこうかと思っています。予定はまだ決まっていません。今年、コロナの影響ですべての仕事が一旦止まってしまっています。コロナの状況次第で考えます。
 
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
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