2020.11.04 [イベントレポート]
「ピントが合っていない背景のような人たちの映画をやりたい」11/3(火・祝)Q&A『君は永遠にそいつらより若い』

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©2020 TIFF 10/31(土)のレッドカーペットアライバルに登壇した際の吉野竜平監督(右から2番目)

 
11/3(火・祝)TOKYOプレミア2020『君は永遠にそいつらより若い』の上映後、Q&Aが行われ、吉野竜平監督が登壇しました。
⇒作品詳細
 
司会:安田祐子(以下、安田):本只今よりQ&Aセッションを行いたいと思います。皆様、拍手でお迎えください。吉野竜平監督です!
 
吉野竜平監督(以下:監督):今日は『君は永遠にそいつらより若い』上映にお越しいただき、本当にありがとうございます。コロナ禍でオンラインでの上映も増えている中で、ちゃんとスクリーンで上映して皆さんに観ていただけたことをとても嬉しく思っています。今日はよろしくお願いします。
 
安田:TIFFでは2回目の上映になりますが、お客様に観ていただくというのはどういう気持ちでしたか。
 
監督:どの映画もそうですが、監督やスタッフは編集する過程で何十回もこの映画を観ているので、感覚が麻痺してきて何が面白いのかわからなくなってきます。でも前回上映したときに、沢山笑い声が起こっていたと聞いて、それがとても嬉しかったです。やっぱり生のお客様の反応を知ることができるので、貴重な機会だと思います。
 
安田:笑いといえば、私の名前も安田ですが、“安田”を演じた葵 揚さんをはじめ、本当にキャスティングが光っていていましたが、先ほどオーディションをほとんどされていないと伺いました。どうして佐久間(由衣)さんや奈緒さんを起用されたのでしょうか。
 
監督:佐久間さんは、結構前から一緒にやりたいと思っていました。佐久間さんは身長が高いので、役が限られてくることもあると思いますが、実際に会ってみると、ああいう見た目でも感覚がすごく庶民的な人です。結構若い役者だと感覚がずれている人が多いけれど、佐久間さんは、アルバイトをしたらこれぐらい稼げるとか、そういう普通の感覚を持っている。直接話す中で、佐久間さんになら「普通の人」を演じてもらうことができると思ったのが決定打になりました。奈緒さんは、佐久間さんと対照的なキャラクターです。小動物みたいな女の子を探しているときに、奈緒さんの出身地である福岡でずっと映像の仕事をしていた友達から、最近東京に出てきた奈緒ちゃんがとてもいいから絶対使ったほうがいい、という話を聞きました。それで調べてみたらイメージがばっちりだったので、キャスティングしたといういきさつです。
 
安田:この作品の原作の小説は、津村記久子さんのデビュー作です。津村さんは言葉の力が非常にある方ですが、それを映像化したいと思った理由をお聞かせください。
 
監督:この小説は津村さんが会社員として勤めながら、夜コツコツと書き溜めていったもので、いろいろな感情や初期衝動みたいなものをとにかくぶつけるという小説だったので、そのパワフルさを失わずに映像化するのは大変だなと思っていました。でも、ここに登場するような、大きな自己主張をしない普通の人たちの悲しみのようなものは僕にもグッとくるものがあり、絶対これはやりたいと思って臨みました。
 
安田:津村先生は、映画をご覧になりましたか。
 
監督:一昨日、映画祭で1回目の上映の際に、大阪から来てくださって、そこで初めて観てくださいました。いろいろな設定を結構変えているので、怒られるかなと思っていましたが、すごく喜んでくれて、興奮して「本当にありがとうございます」と向こうから頭を下げられてしまい恐縮でした。0から1を創った人にそんなに祝福されて、本当にうれしかったです。
 
Q:原作からいろいろ設定を変えたとおっしゃいましたが、なぜそれを変えたか、どう変えたかを教えていただきたいです。
 
監督:大きな変更点は、原作で出てくるキャラクターが映画には出てこないことです。リストカットしちゃう女の子とその彼氏で結構重要な人物ですが、僕は映像にするにあたって、もし彼らを描くなら全部描き切らないとやる意味がないと思ったので、彼らを登場させることはやめて、最初に教室でカッターナイフを出す女の子の短いシーンにまとめてしまいました。あとは、堀貝の大学の卒論のレポートのテーマは、原作だと中国の2人の映画監督のどちらと結婚したいかというものですが、15年ぐらい前の小説なので、そこは今に合わせたものに変えようかなと思いました。
 
Q:普通の人の自己主張しない悲しみについてお話しされていましたが。
 
監督:そうですね。SNSの時代に、声が大きい人や目立つ人、キャラ立ちしている人ばかりが目立って、真実を言っている小さな声はそういう大きな声に隠れてしまうことがあります。僕はそういうのが嫌だなと思って、それをこの映画でメッセージとして強く入れたかった。普通だったら、大学だとさっき話にでたカッターを持つ女の子のほうにピントが当たって、あの子たちの恋愛事情のほうが面白いですよね。でも、本当だったらピントが合ってない周りの子たちの映画をやりたいなという気持ちで作りました。
 
安田:いい意味でも悪い意味でも、普通の人を魅力的に魅せるというのはすごく難しいと思いますが、とても素敵な映画になっていました。キャストの方どういう風に演じてほしいかというコンセプトは決めていたのでしょうか?
 
監督:本当にそれこそ、「普通の人」です。町ですれ違っても誰も振り向かないような普通の人で、特に堀貝も猪乃木も正義の主張を持っている人間でもなく、なまけものだったり、要らない一言を言ったり、だらだら生きているような人だから、いい人を演じようとはしないでくださいと。そういう卑怯なところある人が、たまに一瞬すごい光を放つのが人間の素晴らしいところだと思ったので。あんまり素晴らしい人を演じないでくださいねということは、佐久間さんや奈緒さん、吉崎壮馬役をやった小日向星一くんに話しました。
 
安田:本当に考えてみると、敵のような人がいない映画ですね。小日向くんもですが、特に笠松(将)さんの演じた穂峰が、短いシーンだけの登場ながらも、とても印象に残っています。あの最初のシーンだけの出演と決まっていて、笠松さんにお願いした理由をお伺いできますか?
 
監督:穂峰は、回想を入れても3シーンくらいしか出てきません。堀貝と穂峰との関係も、恋愛感情のある運命の出会いだったかというと全然そんなことはなく、ただ単にこの人とは気が合うな、もう1回話してみたいなと思っていたら、「ああ、もう会えないんだ」となるような、1回しか会ってないからこそ印象に残るというキャラクターにしたかった。笠松くんには妙なミステリアスさがあって印象に残るので、彼にお願いしました。
 
Q:作品の中で、奈緒さんと佐久間由衣さんの距離が身体的にも近づくシーンがありました。
 
監督:あのシーンは恋愛や友情という別のテーマで撮りたかった部分です。というのは、表には出さないけれど、あのシーンは猪乃木さんがこの映画の中で一番精神状態がぎりぎりのシーンです。その中で、自分が出来なかったことを堀貝に託したいのに、堀貝さんがずっとしょぼーんとしていて、猪乃木さんは最後のパワーを使って、堀貝に突撃していく。そのぶつかった勢いで、猪乃木さんはどんどん闇のほうに行ってしまうイメージだと奈緒さんに伝えました。あれは女性同士の恋愛とはちょっと違うんじゃないかなと僕は原作を読んで思っていたのでああいう風にしました。
 
安田:たくさんの素敵な感想、質問ありがとうございます。最後に監督、一言皆様にご挨拶お願いできますか。
 
監督:今日は足を運んでいただいて本当にありがとうございました。撮る前は全然想像もしていなかったような世界状況下で、作品が出来上がってこのタイミングで上映することで、勇気づけるなんておこがましいですが、辛い思いをしている人も今多いと思うので、こういう映画もあるんだよと寄り添えるような作品になっていたら嬉しいです。こんなにたくさんの方に観ていただいて、すごく嬉しいです。本当にありがとうございました。
 
安田:2021年に公開なので、一足はやくご覧になった皆さんがSNSで感想などを挙げてくれたら、監督嬉しいですね。
 
監督:嬉しいですね、よろしくお願いします。

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