2020.11.05 [インタビュー]
多彩なエピソードを盛り込んだ“大阪3部作”の最終話『カム・アンド・ゴー』公式インタビュー:リム・カーワイ(監督)

東京国際映画祭公式インタビュー 2020年11月1日
カム・アンド・ゴー
リム・カーワイ(監督)
公式インタビュー

©2020 TIFF

 
大阪の梅田を軸にする地域を背景に、韓国、ネパール、マレーシア、中国、台湾など、さまざまな国からやってきたアジア人の姿を活写した群像ドラマ。日本で逞しく生き抜く彼らの本音がビビッドに綴られる。監督のリム・カーワイは大阪大学に通い、現在は、日本、中国、香港、韓国、バルカン諸国など、国を跨いで作品を撮り続ける。台湾のリー・カンション、ベトナムのリエン・ビン・ファット、さらに千原せいじ、渡辺真起子など、多彩な出演者も話題だ。
 
――この作品が生まれた経緯から伺います。
リム・カーワイ監督(以下、リム監督):『カム・アンド・ゴー』は、私の“大阪3部作”の最終編になります。1作目の『新世界の夜明け』は、10年前、悪化した日中関係をテーマに、大阪の新世界を背景に撮りました。その時に、大阪という場所の面白さに気づいたのです。
大阪は、大きく3つのエリアに分かれます。スラム街的な新世界、キタに位置する梅田、そしてミナミの心斎橋。次は、北や南で撮りたいというアイデアが浮かんできました。2012年は日本は韓国との関係も悪化した頃です。そこで、大阪のミナミを舞台に、『FLY ME TO MINAMI~恋するミナミ~』 というラブストーリーを作りました。
大阪と香港、韓国の3か国の男女の国境を越えた恋の物語です。
 
――本作では大阪の北、梅田周辺を舞台にしていますね。
リム監督:資金集めに苦労しましたが、やっと去年、撮影できるようになりました。北の梅田で、今回は日本とアジア各国の関係を題材にしました。去年、大阪を訪れた時、10年前とは全く状況が変わっていました。以前から大阪は外国人が多かったのですが、東南アジアを含め、世界各国からの留学生、外国人労働者が一気に増えてきました。今は、コンビニや居酒屋で働くのは東南アジアの人間です。
もともとテーマは「日本とアジア各国の関係」で、3部作の最終作ということもあり、9カ国の異なる人々を描きたかったのです。もはや大阪も単に日本の大阪ではなく、僕から見るとアジアの大阪、世界の大阪となっているように見えます。
公式インタビュー
 
――9つの国の人々のエピソードは、どのように選んだのですか?
リム監督:国の個性で選んでいるわけではなく、実際に聞いた話をもとに選んでいます。例えばネパール人の話は、僕の行きつけのカフェで働く難民申請中のネパール人の話に着想を得ました。日本のAV嬢と偽って、韓国女性たちが中国人に接待をするエピソードも実際に聞いた話です。
 
――千原せいじと渡辺真起子が警官と日本語学校教師の夫婦を演じました。妻の不倫のエピソードも見聞したことをもとにしていますか?
リム監督:これは完全にフィクションです。群像劇をまとめていくには事件が必要だと考えて、“白骨死体事件”を入れました。事件があるなら捜査する刑事とその家族がいるし、何か事情もある…というふうに、イメージを膨らませていきました。
 
――マレーシアから来るビジネスマンはとても裕福な役で登場しますが、監督の出身国ということも関係しているのでしょうか?
リム監督:僕はマレーシア人ですがずっと日本や中国で映画を製作していて、一度もマレーシアで映画を撮ったことはないし、マレーシアが絡んだ映画もありません。本作では、東南アジアにまで題材を広げたので、マレーシア人を入れようと思いました。
今、大阪を訪れるマレーシア人の観光客は華僑が多くて、イスラム教の人はほとんどいません。日本はイスラムに対するケアがまだ整っていないと思います。そうした状況から、日本のマーケットを開拓しようとするビジネスマンのアイデアが浮かんできました。
 
――リー・カンションをはじめ、キャスティングの豪華さに驚かされました。
リム監督:3作目ということもあり映画をパワーアップさせようと、有名な俳優にも声をかけました。リー・カンションとは10年前に知り合い、彼がAV女優の映画を製作する時に翻訳の手伝いをしたのが縁で、いつか彼の映画を作りたいと思っていました。ほかの出演者も有名無名を問わず、中国や香港、韓国の出身者で、僕が信頼できる顔ぶれを選びました。
 
――この作品を製作する上で苦労というのはありましたか?
リム監督:大変だったのは、資金が集まってゴーサインが出た時点では脚本ができていなかったことです。チャンスを逃すと製作できないと思って、急いで脚本を書きキャスティングを始めました。海外からのキャストは旅費や宿泊費の面で長く滞在できません。皆さんには2日から3日間の撮影でお願いしました。スケジュールの調整に頭を悩ませましたが、なんとか20日間で撮り終えました。
 
――この映画では街に密着したロケーションが素晴らしいと思いました。
リム監督:撮影の舞台である北区中崎町に、僕が住んでいたことが大きいと思います。この映画では自分がよく通っていた場所や、自分がよく歩いていた場所を中心に撮りました。
 
――この作品で日本とアジアの関係を考察して次の企画はあるのですか。
リム監督:やっと大阪から解き放たれると思いました(笑)。もし日本で映画を撮るとしたら、東京や福岡、北海道などがいいかと考えていましたが、それもコロナ禍の前の話です。コロナ禍前後の大阪を対比させることに興味が湧きました。
公式インタビュー
 
――大阪の魅力というのはどういうところにありますか?
リム監督:大阪はアジアに近いなと感じました。冗談もツッコミも好きだし暮らしやすいと思います。
 
――次回作の舞台は大阪になるかもしれないという話でしたが。
リム監督:実は『カム・アンド・ゴー』の後にも、3人のスタッフとともにバルカン半島に行って映画を撮りました。『いつかどこかで』というタイトルで、スロベニア、北マケドニアに住んでいるトルコ人の話です。未知の国や文化のもとでトルコ人の不倫の話を作りました。
 
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
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