2020.11.06 [イベントレポート]
「この映画が間違ったことをさせないための一番の抑止力になればいい」11/1(日)Q&A『トゥルーノース』

トゥルーノース

©2020 TIFF

 
11/1(日)ワールド・フォーカス部門『トゥルーノース』上映後、清水ハン栄治監督、宋允復さん(アドヴァイザー/No Fence事務局長)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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矢田部吉彦 シニア・プログラマー(以下:矢田部SP):皆様本日は第33回東京国際映画祭ワールドフォーカス部門『トゥルーノース』ご来場くださいまして誠にありがとうございます。大きな拍手でお迎えください。『トゥルーノース』監督、清水ハン栄治監督、そしてアドヴァイザー No Fence事務局長、宋 允復さんです。まずは、会場の皆様に一言ずつご挨拶の言葉を頂戴出来たらと思います。
 
清水ハン栄治監督(以下:監督):映画を楽しんで頂けたらと思いました。結構ヘビーなテーマなんですけれども映画を作る人間として、悲劇だけじゃなくて、やっぱり映画っていうのはエンターテインメント性がないといけないので、その分ちょっと意識して作ったので、皆さんに楽しんでいただければよかったなと思いました。
 
宋允復さん(以下:宋さん):清水さんと出会って10年ですか。作品が完成するのに10年の歳月が流れて、その間様々な折にお話しさせて頂きましたけれども、今日私自身も、この作品を通しで拝見するのが初めてです。一つ一つにかつて私共が聞き取りをしてきた、話を聞かせてくださった収容所体験者の姿とかですね、思い浮かんできまして。感無量というか、あまりに時間がかかりすぎたなっていう気がするんです。この映画って言うよりも、このような実情がこのような形で映像化されて、作品として世に問われる。もっと早くてもよかったんです。20年前30年前でもよかったかもしれないけれども。2020年の暮れも迫ってこのような形でなったということで。それを清水さんが10年の歳月をかけて、大変な経済的な負担も含めて背負って、実現してくれたってことに大変感謝しております。
 
矢田部SP:お二人にお聞きしたいんですけれども、最初から、映画にしよう、あるいはアニメーションにしようというようなゴールがあったのか、あるいは他のルポルタージュですとか書物にするとか、そういったことも考えながらのスタートだったのか。その経緯を教えていただけますでしょうか。
 
監督:ちょうど10年ぐらい前に、前作のドキュメンタリー映画、幸せについて、世界中を巡るっていうドキュメンタリー映画を作って、それと同時にもう一つプロジェクトが完成したのがあって、子供の時に皆さん伝記漫画シリーズって読むじゃないですか。あれを、現代の、ヒーローってことで例えばダライラマ法王とか、マザーテレサとか、ガンジーとか、そういった人権派のヒーローたちの漫画シリーズを海外で十何か国語にして売ったプロジェクトを終えたんですね。それで、面白いのが、映画を終えて、漫画シリーズを終えて、次のプロジェクト何にしようかなって言うと、この二つのプロジェクトが合わさったところにアニメって言うのがあって。アニメを作ったことはないんだけど、アニメを作ってる方だと、よくもまあ何も作ったこともないのに、物好きな人だなと思うかもしれないんですけど、逆に全然よくわかってないからやれたっていうのがあります。テーマ的にはやっぱり人権のことに携わりたかったので、人権で何か世界に広げなくちゃいけないテーマはないかなと考えました。以前は、例えば、チベット問題とかパレスチナの問題とか、そういうのに携わりましたが、次に世界的に、人権蹂躙のことを知らせないといけないとなりました。探してたときに、宋さんと知り合うきっかけになった、ヒューマン・ライツ・ウォッチの日本代表の土井さんにお会いして、漫画で面白いことやってるね、このテーマはどう?ということで一冊の本を渡されたのです。それが、北朝鮮の収容所にいた人で、命からがら逃げてきた人の手記だったんですね。それを読んだ後に3日間くらい眠れないくらいになりました。あまりにも書かれてることが酷すぎて。。。それでこれをアニメにして伝えられないかってことを、まず最初に考えました。
 
矢田部SP:宋さんは、アニメーションというアイデアを聞かれたときにどのように思われたか、そして、その後どのような形で清水監督と歩んでこられたのか、教えていただけますでしょうか。
 
宋さん:私自身は、清水さんとこのテーマについて色々話した時に、収容所の問題は最初に漫画で作ってはどうかということを提案しました。アニメ映画と漫画では要する予算の規模も桁が違いますよね。清水さんは「Manga Biography」の実績もお持ちなので、段階を踏んで、まずは漫画をつくって、それからアニメ映画というステップを踏んだらどうかという希望をしました。ただ、清水さんはいやって…言うんですよね。相当決意が深いようで、初めから高い崖のほうを登っていくよと。それは世界にそれだけインパクトを与えなければならないということで決意をされていました。
 
矢田部SP:宋さんは制作にどのような形で関わられたのか、例えば、脚本を執筆の時に一緒に考えられたりとか、どのような形でのコラボレーションだったのかを。
 
宋さん:もっぱら私共が聞き取りをしてきた収容所経験者、あるいは自分の親族が収容所に送られたという経験を持っている人のエピソードを共有して、そうした方々に直接、清水さんが聞き取りをなさるというお繋ぎをしたり、そういう形がメインです。
 
Q:冒頭で確か7時55分から始まったと思うのですが、今日の上映も7時55分からの開始だったのは、これって何か意味があるのでしょうか。
 
監督:ありがとうございます。あれは時間ではなくてTEDカンファレンスっていう世界中のスピーカーが集まる会議がありまして、そのフォーマットで18分間喋る時間があるんです。それをカウントダウンしているのです。TEDの方にはレジデンスプログラムというのがあってそれでこのプロジェクトを選んで頂いて、僕もニューヨークに行ってTEDの方たちにお世話になった、そんなバックグラウンドもございます。
 
矢田部SP:映画祭の上映時間は監督のスケジュールと映画祭のプログラムのスケジュールを兼ね合わせて決めておりますので、なかなかそういうところを合わせるというのは難しいですね。
 
Q:映画での出来事というのは実際に聞き取りの段階でもあったのでしょうか、それとも映画的演出の一つなのでしょうか。
 
監督:後で宋さんにも同じ質問をぶつけたいと思うんですけれども、実際にいろいろ聞き取りをしていって北朝鮮の収容所の元看守だった方がいらっしゃって、ソウルで今NGOをしていらっしゃるアンミョンチョルさんという方がいらっしゃって、その方のお話を聞きました。色々と看守がいるんですけれども皆、入ったときには我々と同じで倫理観もしっかりしていて普通の人間、優しい人間だったんですけれども、どんどん人間性が変わっていく人がいましたと、悪くなっていく人がいましたとおっしゃっていました。逆にアンミョンチョルさんみたいに、そういった経験を経て人間性に目覚めていく人もいたそうです。だから、全く僕らと同じだと思うんですけれども、どんどん悪くなっていく人とどんどん良くなっていく人がいると思うんです。そのモザイクみたいなものを北朝鮮の収容所の中で見せたかった、というようなテーマです。宋さんは色々と聞き取りをされる中でそういった人間性の話というのはありましたか。
 
宋さん:こういう収容所に管理する側として配置される人達は、エリートの中で選ばれて徹底的に事前の教育を受けるんです。ここに入っている奴らは悪辣で、祖国と人民に害をなした人間たちであって、今でもそういうことをやろうと目論んでいる奴らだと。だから奴らを人間扱いするんじゃないと。徹底的に憎しみ、厳しく管理してその中でいささかでも反抗的なものが見えたら容赦なく叩きのめして殺しても構わないんだと。このような教育を徹底的に受けるのです。奴ら(収容されている人々)に人間としての同情を抱いたらお前は敵に投降したということなんだと、そうなったときにはお前自身がああいう身分になるんだと、お前だけじゃなくてお前の家族もああいう身分に落とされるんだと、このような教育をさんざん受けるのです。ただ、そんな中でも、現場で配置されて、接する中でおかしいなと気づいてくることがある訳です。あれだけ悪い奴らだと教わってきたのに、触れてみると自分たちがなぜ収容所に入れられているのかすらわからない、例えばこの映画では父親ですけど、父親が罪を犯したらしいんだけれどもその家族たちまでも(収容所に)入ってきている、実際に父親が何の罪を犯したのかはわからない、こういう人たちがすごく多いって言うんです。直接そういう囚人たちと触れていく中で、これはやっぱり違っているんじゃないかと気付いていくというきっかけがあるわけです。管理体制の中で、その末端でこき使われている人たちでも、成果を上げると、例えば管理勤務から出た後に大学に送ってもらえるとか特典が与えられるわけです。そのために罪を犯してもいない囚人たちを鉄条網のほうにけしかける。電気鉄条網ですから感電死させたり、撃ち殺したりして、逃亡しようとしているのを未然に防ぎました、これが成果ですと報告するわけです。そしてそのことに対して表彰を受けて、いいポジションに就こうとするとか、そうなると人間の心模様というのが出てくる。
北朝鮮の体制を成り立たせているのは、そのような恐怖の連鎖ですね。やらせている側、人民を抑圧し、苦しめている側も気付いてはいるようです。
中国の刑務所で、強制送還される脱北者と、収容所の管理者だった北朝鮮の保衛省の人間がたまたま一緒になって、脱北者にこう言ったそうです。俺たちもお前たちを取り締まって苦しめているが、それが異常なことだとはわかっていると。でもそれをやらないと俺たちが殺されてしまうんだと言っていたんだそうです。だから外から、北朝鮮の恐怖支配の構造を知っているぞ、そういうことはもうやめにしようじゃないかと情報を送ることは効果があるはずだと。
 
Q:主人公を日系と設定した理由は何だったのか。全編英語の作品ですが日本の人たちにはどのように観てほしいのかを教えていただきたいです。
 
監督:僕の名前が清水ハン栄治ということで僕も在日韓国人の4世になるんですね。母の時代だとおそらく9万3000人以上の在日コリアンの人たちが北朝鮮に渡って主人公のような家族になったというのがあって、僕も色々と考えると、昔に母なり、おじいちゃん、おばあちゃんたちが違う決断をしていたら僕が北朝鮮に行って収容所に生まれてるかもしれないので、チープなSFムービーみたいな感じにはなりますが、色々な人を救いたいという気持ち、パラレルワールドに住んでいる僕を救いたいなという気持ちもモチベーションとしてはありました。英語で作ったというのは世界に広く届けたいというのがあります。これはアジアを超えた問題だと思っています。日本の観客の皆さんとシェアしたかったのは、北朝鮮人だけじゃなく、且つ在日だったコリアンの人たちみたいな存在だけじゃなく、日本人拉致被害者も収容所にいたっていう証言があるんですよね。それを日本の人に伝えたくて日本も話に盛り込みました。この場を借りて言わせていただくと、色々なところでメディアの方にインタビューされて、その度に記事にしていただいたんですよ。拉致被害者がいたよという風に書いてもらっているのですが、政治家の方や外務省からは一切問い合わせがないんですね。一般市民が命を懸けて作って、発信しているつもりではいるのですが、なかなか偉い人たちには届かないなという無力感を少し感じています。
 
矢田部SP:今の監督のお言葉はとても重要なのでじっくり翻訳していただいて、最後にまた監督のお言葉をいただきたいと思います。
 
監督:遅い時間まで本当にありがとうございました。この作品をもっと世界に広げていきたいと思っております。今12万人が収容所にいて、彼らを救いたいという気持ちもありますが、おそらくいつの日か北朝鮮が国際社会に受け入れられる時が来ると思うんですね。どういった形かはわからないですが、僕はそれについて言及するつもりはないですが、そんなタイミングが来ると、かつて第二次大戦中にナチスがしたように戦争負けそうだなと感じたら、まず彼らは大掃除をするんです。歴史を調べていただければわかると思うのですが、その大掃除は何かというと強制収容所をすべてぶち壊してそこに住んでいる人たちを殺してしまうんです。同じことが、北朝鮮が、国際デビューするときに起こるんじゃないかなと思っています。それをさせないための一番の抑止力になるために、この映画が世界に広まればいいなという風に思っています。世界に広げるためにお金も必要になっております。日本語バージョンの劇場公開が来年から、東映ビデオさんの協力で劇場で配給される予定です。そのエンディングクレジットに皆さんのお名前を、クラウドファンディングからもしサポートいただけるのであれば、載せますので、軽く(笑)、お願いをしたいと思います。

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