2020.11.05 [イベントレポート]
是枝裕和監督、映画と配信の共存に持論「映画館が多様性失わないことを願う」
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濃密なセッション

第33回東京国際映画祭と国際交流基金アジアセンターの共催による「アジア交流ラウンジ」で11月4日、「映画の未来と配信」と題した特別セッションが都内で行われた。

是枝裕和監督が、「映画祭は映画人が話し合う場が必要。コロナ禍において映画はこれからどうなっていくのか、過去はどういうものであったかをいろいろな視座を持って話してみては」と提唱。賛同した行定勲監督、マレーシアのリム・カーワイ監督、配給会社スターサンズの河村光庸社長、東宝の松岡宏泰常務、Netflixの坂本和隆コンテンツ・アクイジション部門ディレクターが集った。

当初、4月に全国約280スクリーンで公開予定だった行定監督の『劇場』は、政府の緊急事態宣言により延期に。結果、7月にAmazonプライムで配信、約20館のミニシアターで同時公開となり、「驚がくするくらいSNSのレビューがきた。(配信で)見た人の数は教えてもらえないが、70万人くらい見てくれればいいと思っていたら2ケタ違うと言われた。日本映画を世界に広げる意味では有効な場かもしれない」と指摘した。

一方で、公開初日には渋谷ユーロスペースに出向き「スクリーンで見ていただけることの喜びに泣けてきた。それまでは当たり前と思っていたが、こんなにありがたいことはない。2020年7月11日は忘れられない日になった」と明かす。その上で、「作り手としては、スクリーンでかかることを常に夢見ている」と映画監督としての矜持(きょうじ)を示した。

17年に『あゝ荒野』前・後編を配信先行、公開と同時にDVD販売も行った河村氏は「インディーズが存続していく上で配信は欠かせない」と賛意。だが、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の空前のヒットを例に挙げ、「大手しか恩恵を受けられず、中小の単館系の映画館は取り残された」と持論を展開した。

これに対し、是枝監督が「アートハウスでは、2年ぶりに作品を持っていくと観客、館主と継続した人間関係が築ける。それが積み重ねていけないのが残念」と当事者としての感想。さらに、「コロナによって可視化されたものに、ミニシアターエイド基金がある。集まった金額だけを見ても、こんなに愛してくれる人がいるんだと感動した。そういう産業、文化の一員であるという意識が明快になった。これを制度にできる道はないものだろうか」と訴えた。

議論は「映画とは何か?」という究極の話題に及び、是枝監督は劇場公開と配信の共存について「自分が作っているものでも、これは映画かという内なる問いを続けている。映画の外側が揺らいでいる中で、(配信でも)面白い作品は出てくるだろう。そういうものを映画祭が提示し、語り合うのがだいご味。多様性があるからこそチャンスが生まれ、新しい作り手や観客が生まれていく。映画館がその多様性を失わないことを願っているし、作り手が意識的にやらないと消えていくと思う」と力説。行定監督も、「映画館がなくなるとは絶対に言いたくないですから」と補足していた。

第33回東京国際映画祭は、11月9日まで開催。
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