10/31(土)TOKYOプレミア2020部門 オープニング作品『アンダードッグ』上映後、武 正晴監督、足立 紳さん(脚本)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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司会・矢田部吉彦シニア・プログラマー(以下、矢田部SP):今年の東京国際映画祭のオープニング作品、そしてTOKYOプレミア2020部門の作品をご覧いただきました。これからゲストの皆さんをお迎えしてQ&Aを行います。大きな拍手でお迎えください。
武 正晴監督(以下、監督):武です。まずは、この映画を呼んでくれてありがとうございました。ほんとに感謝します。こういう状況で上映ができるとは夢にも思ってなかったので。それとあの、本当に多くの皆さんが夜遅くまで前編と後編の一気観をしていただいて感謝しております。今日は本当に長い時間ありがとうございます。
足立 紳さん(以下、足立さん):脚本の足立です。オープニングの作品に選んでいただいて、こういう状況の中でもお客さんと直に触れ合えるような上映環境を作っていただいた映画祭には本当に心から感謝しています。この遅い時間に長い映画をずっと観ていただいたお客さまにも本当に心から感謝しています。ありがとうございました。
矢田部SP:長い時間をとおっしゃいましたけどおそらく時間をほとんど感じさせない映画体験だったのではないかと思います。まず私から基本的なところをちょっと二つお伺いしていきたいと思うんですけれども、武監督と足立さんの脚本ということで、『百円の恋』に続いて東京国際映画祭でお迎えしたということになります。それから、この『アンダードッグ』という作品が完成したわけですけれども、その誕生のいきさつをお伺いしたいです。
監督:これはちょっと足立さんから先にいきさつを。
足立さん:答えてしまうと、『百円の恋』のプロデューサーの佐藤 現さんからですね、「またボクシングで『百円の恋』に勝るとも劣らないものを作ろうじゃないか」っていうような提案があって、それでそこから考え出したという感じです。
監督:正直、ボクシングって言われてですね、「またか」って感じはしたんですけど(笑)。しんどいですね、ボクシングの撮影っていうのは今日ご覧になったとおり、本当に演者がですね、苦しみながら、撮影というよりも試合という感じで臨むんですね。普段のボクサーは3分間と1分のインターバルで、例えば8ラウンドだったら4分かける8で32分ですよね。32分の時間じゃなくて、32時間ぐらいのボクシングをやらなくてはいけないというしんどさがあるのです。正直思ったんですけども、足立さんが書いた本を読んだときに「これはもうボクシングだけじゃないな」という魅力がありましたので、一気に読ませていただいて。それで、何かもうひとつチャレンジしてみようかな、と。そこには演者の森山未來さんと北村匠海くん、そして勝地 涼さんという素晴らしい3人の演者がそれを引き受けてくれて、可能性が広がったので、そこから、ワンチャレンジ、我々もしてみようかな、というところのスタートでしたね。
矢田部SP:足立さん、この3人の負け犬ボクサーが人生が交差していくというこのアイデア、着想はどのようにして得られたのでしょうか。
足立さん:僕もその、もう一回ボクシングって言われたときに、自分の中で『百円の恋』でボクシングに関しては出し切ったっていうようなものがあって、じゃあ一体何を次にやればいいんだっていうようなときに、佐藤 現さんと話してて、ボクシング界にはかませ犬っていうふうに呼ばれてる選手たちがいるんだっていう話をお聞きして。ある一定の実力はあるんだけれども、そこからなかなかいけなくて、いつの間にか若手でどんどん伸びていくような選手の対戦相手として、自信をつけるような相手としてやっているような選手がいるんですっていうようなお話を聞いて、なんとなくそこに、そういうふうに生きている選手なら何かが書けるかもしれないというふうに思って、それで森山さんのような選手を想定して書き始めたんです。そのあたりはすぐパッと書けて、勝地さんの役に関してはお笑いの番組とかで芸人さんが何かの企画に、ボクシングに限らず色んなことに挑戦するっていうようなものをよく観ていて。くすぶっているお笑い芸人が挑戦している世界の方にのめり込んで人生を打破していくような話っていうのを前々から考えていて、それをミックスさせたようなところがあります。
矢田部SP:私からもう1問、武監督に。やはり主演の森山未來さんがすさまじいわけですけれども、彼のキャスティングはいかにして実現したか、そしてどんな役者さんだったか、語っていただけますでしょうか。
監督:彼はずっと業界の中でもアメイジングな俳優だっていうのは聞いていましたし、実際、彼の出演しているものはやっぱり特別なものがあるので。さらにダンサーとしてのパフォーマンスだとか身体能力っていうのは、優れた俳優たちがさらにちょっと畏敬の念で見ているというような話を聞いていたので、プロットを読んだときに森山さんじゃないのかなと、彼が必要なのかなと思いました。あとは彼がこれをやってくれるというような返事をしてくれるといいな、と。実際に一緒に仕事をしていく中で、やはり俳優というのは恐るべき存在であり、「人に非ざる優れた者」というふうに書くわけです。とにかくトレーニングもそうですけど、必ずどんな場所でもどんな時間でも自分の、ヨガもやったりしていて、それを必ず一日の中でやらなくてはいけない、どんな場所でも必ず同じ時間にやっていくんですね。それを見せられた時に、こっちもきっちり撮らないといけないなと思いました。常に、トレーナーじゃないですけど、ずっと一緒にいて、何か一緒に作っていきたいなという、1分1秒でもこの人と一緒にいるほうが自分が何か高まっていくんじゃないかなと思わせてくれるような俳優さんですね。
Q:二ノ宮隆太郎さんの印象と起用について、あと森山さんと二ノ宮さんのシーンで面白い化学反応があったら教えていただきたいです。
監督:足立さんがある日「すごい俳優がいますよ」って。『枝葉のこと』という映画を観たので、是非観てくれって。僕は足立さんが勧めてくれる映画を観るようにしてるんですけど、面白くて。それですごい人がいるなと。『全裸監督』という作品をやっていた時だったので、オーディションに呼んで、それで國村隼さんの横にいるヤクザの役っていうのをネットフリックスの人に推薦して、出てもらったんですね。で、その頃には(『アンダードッグ』の)台本が上がってきていたので、二ノ宮くんにアテ書きしていたところもあって。それをプロデューサーにも話をして、ほとんど即決で決まったと思います。まあ、素晴らしかったですね。本当に足立さんの書いたシナリオを体現できる、ほんとに台本通りなんですよ、ああいう風に書いてあるのは。あれをほんとにできる人がいるのかなと思っていたら二ノ宮くんが見事にやってくれました。二ノ宮くんと熊谷(真実)さんのコンビっていうのはほんとに素晴らしいですよね。今は、映画(の宣伝・告知)が始まったばかりなので3人のボクサー役がフィーチャーされると思いますが、実はこの2人とか、あと、主演3人の周りを固めている女優陣が本当に素晴らしい演技をしてくれているので、優れた俳優たちに出ていただいたなと思います。
矢田部SP:東京国際映画祭で日本映画をたくさんご覧いただいているお客様でしたら、お気付きになったかもしれませんが、ケンタッキー・フライド・チキンを食べている大柄のやくざというかチンピラは渡辺紘文監督ですよね。
監督:未来の監督の対決っていうバトルを、狙いたかったのです(笑)。
Q:武監督と足立さんは、映画を作っていて、これは負け戦だけど、それでも楽しい、負けても輝けるという体験はありますか。
足立さん:おそらくほとんどのスポーツが“負けても輝ける”と思うんですけれども、僕は、ボクシングには特にそういった部分を感じてしまいます。
2人の選手が対戦して、おそらく2人とも、その試合にあわせて、普通の人なら、もしかしたら1回も体験しないような努力をしてその試合に臨む。いい試合をしても負けることもあれば、歯が立たず木っ端みじんに負けることもあると思います。その負けてる姿を、多くのお客さんの前で晒さないといけないっていうスポーツは、チームスポーツは別として、ボクシングとマラソンぐらいのような気がしています。
やっぱり、負けても輝いて見えるっていうのは、負けても、負けたその選手が目いっぱいのところまでやったんだろうなっていう想像を、なんとなく、試合のあとの2人の様子とかセコンドの方々の感じを見てると、そういうものを感じるんですね。
そこにすごいうらやましさというか、僕なんかは、頑張るということから逃げているような人生を歩み続けているので、そういう試合を見るたびに、俺もちゃんとしなきゃとか、いろんなことを思うんですよね。そういったところでこの作品に出てくるセリフを書いたと思います。
監督:学校教育で部活動とかをやっていると、どうしても勝ちとか負けとかっていうことになりますよね。まあ、負け続けましたけれども(笑)。負けることの経験がほとんどだと思うんですよね。勝つ人ってわずかなので。
勝つとか負けるとかっていうところから離れて、この映画の世界に入りました。映画の世界は勝つとか負けるとかということがない世界なので。まだそういうところで歯を食いしばってやれる感じはするんです。
映画の世界で負け戦だったなあと思ったことはないですね。ただ、台本が上がってきて、いつもそこにチャレンジしようとするときに、負けるという昔に経験した恐怖を感じます。映画を作っているうちに、俳優やスタッフの頑張りによって、そういう恐怖から逃れられるというのが、ここ最近ですね。
Q:最初からこの長さを想定されましたか。
監督:実は企画として9話の話なのです。配信で40分かける9話で360分。今日上映したのは、バックグラウンドにある色んな人の話を、うまく外して、繋いで1本にした映画ですね。全編を観ようとするとですね、6時間あります(笑)。
風俗店の話ですとか、女の子の話ですところの物語をいま配信版として用意してますね。もともとそういう台本で、足立さんが一気に上げてくれてたものです。ただ、それを映画にするという話は決まっていました。
同じ場面があるんですけれども、全く違う視点から撮っているカットもあるんで、それを配信のほうでつないでいます。
もし今日映画を気に入っていただいた方がいたら、これから始まる配信は結構楽しめると思います。二ノ宮くんのくだりとかがかなりあります。
矢田部SP:この作品の劇場版は11月27日から前後編同日公開となります。ぜひこの興奮をまた体験していただきつつ、後日配信版で別のエピソードも体験できるということですので、そちらもご期待いただきたいと思います。
最後にお2人に締めのお言葉を頂戴できますでしょうか。
足立さん:6年前の、今回のこの映画を作った武さんや佐藤 現さんはじめ『百円の恋』のスタッフで、この映画を作りました。『百円の恋』を見つけていただいたというか、最初に評価していただいたのが、東京国際映画祭だと思っています。それで『百円の恋』にも負けない作品をまた作ろうということで一生懸命作ったものが、こうして6年後にオープニング作品にまた選んでいただいたっていうのは、僕にとってはものすごく嬉しくて。映画祭に関わっている感じと、わずかながらの恩返しのようなこともできたのかなあっていうことも思っています。この作品を、今日、こうしてお客様と、最近なかなか対話する機会もなかったので、このような機会にもものすごく飢えていたので、ものすごく、やっぱりとても幸せな時間でした。
本当にそういう時間を体験させていただいて、感謝しています。ありがとうございました。
監督:『百円の恋』っていうものは、自分たちをスタートラインに立たせてくれたというか、我々も“アンダードッグ”でしたから(笑)。スタートラインを切れるような作品でした。あの時は「本当にこれからスタートです」とこの東京国際映画祭で言ったような覚えがあります。我々も後楽園ホールというところを目指して、やっとそのリングに立てて、柄本明さん、風間杜夫さんにも出演していただいて、同じスタッフでやれたというのは、我々もこれからまだまだ成長していかなくてはいけないってなりますね。そして、2020年に撮影して、(こんな状況になった)2020年に公開できるという、ちょっと信じがたい、非常に厳しい、我々にはメモリアルな年になりそうです。そのときに作ってそのときに公開したというのが、自分にとっても何かメモリアルになりそうです。
ついこの間まではこういう作品を作れていましたが、きっとまた作れる日が来ると思っております。本当に今日は、そのスタートだと思っています。
みなさん、遅い時間まで付き合っていただきましてありがとうございます。
それと、東京国際映画祭の本当に多くのスタッフに色々ご協力いただいて、ご尽力していただいていると思うので、本当にこの貴重な場をお客さんも我々も共有して、世界に我々がいる東京ではこういう映画祭をやっているんだ、ということを発信していけたらと思っています。